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» 2011年04月12日 07時00分 公開

生産拠点としてのアジア新興国戦略(前編)女流コンサルタント、アジアを歩く(2/2 ページ)

[辻 佳子(デロイト トーマツ コンサルティング),ITmedia]
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チャイナ+1はどこか?

 在タイ伊藤忠商事の西川弘也氏によると、昨年(2010年)の夏以降、これまで中国に依存してきたもののチャイナリスクが眼前に迫ってきたファッション系アパレルメーカーなどが、タイへ相談に訪れるそうだ。実際、わたしが冒頭にお話したあるアパレルメーカーも相談に来ているとのことである。チャイナリスクを軽減・回避しようと、まさにチャイナ+1を探し求めており、中国に依存していた製造の20〜30%程度を移管しようと考えているのである。

西川弘也氏(タイ伊藤忠商事 Vice President アパレル向け製品のOEM経験後、香港駐在を経て、現在はバンコクでGeneral Manager of Txtile Division)

 多くのアパレルメーカーがチャイナ+1として着目するのは、ベトナム、インドネシア、タイとなっている。ベトナムはこれまでも日本市場向けに製造を行っており、日本市場が求める品質や仕様にある程度応えてくれる一方で、既に生産のキャパシティを超えつつある。インドネシアやタイは、中国と同様、川上から川下まで一貫して製造が可能な国であるが、インドネシアは、ベトナムと同じく、既に生産のキャパシティを超えつつあり、タイは人件費が上昇しておりコスト的に見合わない状態となっている。

 では、その次に挙げられる国はどこかといえば、カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュである。しかし、これらの国をチャイナ+1とするのもそれほど容易なことではない。以前、取り上げたとおり、例えば、バングラデシュは、電力供給や物流事情などインフラ面の問題がある。また、これらの国々は既に欧米企業などとの取引が活発に行われているため、後発の日本企業に提供する生産力の有無も問題となり得る。だが、最も大きな問題は日本がこれまで最も重視してきた品質にである。

西川氏と著者

日本企業が求める品質の問題

 かつて中国に生産拠点を設けていた頃というのは、いくつかの点で現在の状況と異なる。まず、当時の中国は繊維産業も含めて日本の技術支援や設備支援を強く望んでいた。しかし、チャイナ+1として考えられているアジア新興国は、現在、既に欧米企業などとも取引を行っており、技術も設備もある程度備えている状態にある。次に異なる点は、日本市場の魅力である。当時の日本は、消費市場として成長と拡大の時期にあり、世界的に見ても魅力的な市場であったと言える。しかし、現在は、規模こそ大きいものの、供給が需要を上回る状態にあり、今後の成長と拡大の見込みはないに等しく、将来を託すに値する魅力的な市場ではないというのが実状である。加えて、当時の中国は段階的に開放政策を進めていたところであったが、現在のアジア新興国はまさに成長の只中にあり、引き手あまたの状態にある。

 したがって、当時の中国には、日本企業が重視する品質を求めることができ、長い年月をかけて、それに対応できるレベルまで共に歩むことができたが、現在のアジア新興国にこれを求めることは難しいのである。すなわち、日本企業が求める品質は、アジア新興国の企業や工場にとって、面倒なものでしかなく、それをまっとうすることによるインセンティブがほとんどないのである。それでは、チャイナ+1を求めるためには、品質を諦めることが必要ということなのか? 品質を諦めなければ、中国に依存した生産体制から脱却することができないのだろうか?

“品質”の認識ギャップ

 これについて、西川氏が興味深い問いを投げ掛けてくれた。「最近、わたしは、日本のアパレルメーカーなどが求める品質について疑問を感じている。H&M、FOREVER21、ZARAが日本に進出する以前は、“日本ではあんな品質では売れないだろう”と多くの専門家が語っていたが、実際には成功を収めている。これはどういうことか。」

 わたしが一消費者として感じることは、日本企業が想定している品質と、日本の消費者が求めている品質には違いがあるのではないか?ということである。これは品質のレベルについてではなく、品質の多様性の幅に違いがあるように感じる。日本企業が求める高い品質を備えた衣服を求めているときもあるが、低い品質でもいいから安くて、気軽に買い換える衣服を求めているときもある。その多様性の幅が日本の消費者の中で、昔よりも広がっているのではないかということである。

 わたしは、日本企業が大事にしている品質は軽視されるべきものではなく、むしろ差別化要素の一つとして、極めて重要なものであると考えている。一方で、アジア新興国にチャイナ+1を求めるとすれば、それをかたくなに守り続けるだけでは供給面での問題が生じてしまうだけでなく、日本市場に安価で流入する海外メーカー製品との争いに敗れてしまうであろう。このバランスをいかに取っていくのか? これこそがアジア新興国を中国に続く生産拠点として活用する上での大きな命題であろう。次回は、この点について、深堀りしていくことにする。

第9回目の「タイ・アパレルメーカーが重視する日本市場、そこに“日本”優位性がある」で紹介したLMEの製造工場風景

著者プロフィール

辻 佳子(つじ よしこ)

デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。


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