日本では破竹の勢いで事業を拡大しているスターバックスだが、実は数年前、米国では大規模に店舗閉鎖を断行するなど厳しい経営状態に陥っていた。いかにして再生を図っていったのだろうか。
スターバックスといえば、世界中に熱烈なファンを持ち、米国企業では珍しく福利厚生が充実している優良企業としても有名だ。本書は、経営者であるハワード・シュルツが、知られざるスターバックスの内面を書き下ろした1冊である。
日本では、安定成長を続けるスタバですが、米国では拡大戦略がたたり、2006年ごろから経営が低迷。著者は、一度は社長の座をゆずったものの、再び現場への復帰を決意。本書では、創業以来初めての経営危機から、業績を奇跡的に回復し愛着ある会社を成長軌道に戻すまでの過程が克明に描かれている。
「いま一番大切なのは、私たちの未来に対して強い自信を持つこと。自信がなければ良い仕事はできない。さらに、戦略と戦術だけでは、この混乱を乗り越えることはできないだろう。何よりも必要なのは情熱だ。それは、多くの経営者が軽んじているものである」
2008年1月の復帰にあたって、著者はこう記している。とはいえ、道のりは平坦ではない。半年後にはリーマン・ショックの打撃を受けて、株価や店舗売り上げは急降下した。
著者にとっての理想は、スターバックスが家庭でも職場でもなく、人と人がつながる第三の場所(サードプレイス)となることである。一歩踏み入れると漂うコーヒーのアロマ(香り)と顧客を旧友のように扱う従業員の接遇、素晴らしいコーヒーの味。このために経営のすべてを見直し、あらゆる限りの手を打ち続けたのだ。
インスタントコーヒー「VIA」などの新商品開発、U2のボノまで登場した従業員集会、業務システムの刷新、地域にとけ込んだ店舗をも閉鎖した大リストラなど……。さまざまなエピソードとともに、著者が失意の底にあっても希望と情熱を捨てず、未来志向で進むさまに読者は心を打たれ、その熱い”情熱経営”を疑似体験することができるだろう。
原題は「オンワード(前へ、未来へ)」。日本において、いま最も大切にしたい言葉である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授