魅力溢れる会社は、情熱やセクシーさといった人間的な要素によって顧客や社員を虜にする――。
ファッション業界で世界一の売り上げを誇るインディテックス社。そのトップブランドである「ZARA」は日本でもよく知られている。著者のヘスス・ベガ氏は、インディテックス社で人材開発のゼネラル・マネジャーとしてZARAを含む10のブランドを統括し、ZARAの日本進出も手掛けた経験を持つ。
本書には、「官能」、「欲望」、「誘惑」といったおよそ経営やマネジメントとは結びつかない言葉が散りばめられている。わずか3週間で企画から流通まですべて自社内で完結する商品開発および供給の仕組み、広告を一切使わないマーケティングなどZARAが世界一のブランドにまで上り詰めた具体的な戦略を述べている。
また、グーグル、アップル、スターバックスコーヒーなどを引き合いに出し、人間的な要素をオープンにして、その会社の人材、商品、サービスを愛してもらえるような企業を「セクシー・カンパニー」と定義付ける。例えば、スターバックスコーヒーはおいしいコーヒーを売っているのではない。コーヒーの香り、適度な音量のBGM、店員の紳士的な対応、座り心地の良いソファーなど、そのサービスが多くの顧客に支持されているのだ。
ZARAの販売員は、声を掛けられるまで商品を勧めるようなことはしない。店内も商品の陳列数よりも顧客のスペースを優先し、広くゆったりと買い物が楽しめる工夫が凝らされている。こうした顧客や社員の心をとらえて離さない企業文化・経営哲学を醸成することが、これからの人材マネジメント、ブランド戦略の新しいトレンドになると提言している。
その中で象徴的なのは、ヘスス氏が、当時会長であったアマンシオ・オルテガ氏とインディテックス社の入社面接を受けたエピソードだ。一通りの質疑応答を終えて、「最後に質問は?」と問い掛けられたヘスス氏。彼は「人事の幹部として私に求められる役割、会社が達成したい目標とは何でしょうか?」と聞き返した。するとオルテガ氏はこう述べたという。「人々を愛して欲しい。そのほかのことはあとからすべてついてくるさ」。
まさに、同社の哲学が垣間見られるシーンである。セクシー・カンパニーを一人の人間に見立てて、その魅力をどう引き出せばよいのか、どのように顧客や社員を魅了していくのか。こうしたエピソードが語り口調でふんだんに盛り込まれている。
世界一のファッションブランドはいかにして誕生したのか? 読者の心をとらえて離さない一冊といえよう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授