【第1回】“チームワーク後進国”になってしまった日本チームワーク 2.0(2/2 ページ)

» 2011年10月18日 08時00分 公開
[北原康富,サイボウズ株式会社]
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日本はチームワーク後進国

 守島教授はまた、日本は新しい形のチームワークに対応できず、今では“チームワーク後進国”になってしまったと警告しています。筆者は、日本のチームワークが次の段階にステップアップする時期に来ている背景に、業務の高度化、情報化、グローバル化の3つがあると考えます。

 業務の高度化によって、ある目的を達成するために、より多様で深い専門知識を動員することが必要になりました。例えば、新しい価値を持つ製品を設計するために、技術開発、生産、物流、マーケティングで深い知識と長い経験をもつ専門家たちが、常時コミュニケーションを続けることが求められます。しかもこれは、社内にとどまらず、契約会社、取引先、時には個人の専門家にまで及びます。

 次に、情報化の進展によって、情報が瞬時に世界中に行き渡るようになったため、ビジネスの環境があっという間に変わってしまうことです。企業組織は、この変化に対応するために、これまでにない柔軟性と迅速性が求められるのに対し、従来の機能別組織では、報告や指示を仰ぐのに時間がかかってしまいます。

 最後に、ビジネスのグローバル化によって、異なる言語、異なる文化のメンバーが協力して、ひとつの目的を達成する必要性が強まったことです。たとえ言語だけを統一しても、人々が協力して仕事を進めるやり方がグローバル水準になっていなくては、良いチームワークは発揮できません。

チームワーク 2.0の導入効果

 それでは、チームワーク2.0が、企業経営にどんなメリットをもたらすのか、機能別組織と照らしながら、いくつかの例を挙げてみましょう。

(1)変化への対応

唯一のリーダーを除いて、チームには組織階層がなくフラットです。これによって、チームが新しい状況に接したとき、その場で変化に対応できます。

(2)業務の効率化、高品質化

1つのビジネスを完了するとき、職能別の組織では、順番に話を進めていくのに対して、チームでは、メンバーが同時並行して、または高度に対話しながら進めます。その結果、問題や改善が迅速になり、効率化・高品質化を実現します。

(3)メンバーの成長

チームで仕事を行う過程では、メンバーはほかのメンバーの仕事ぶりを見る機会が増えます。また、チームの目的の中で、自分が行う仕事の位置付けを理解しやすくなります。このことは、メンバーが広い視野で知識を修得し、理解を深める機会につながります。

(4)イノベーションや画期的な刷新

複数の専門性を持ったメンバーが、横で仕事をするわけですから、問題を解決する方法が、画期的であっても、すぐに意思決定できます。一方、職能別の組織の場合、特定のビジネスのために、画期的な刷新をすることは難しくなります。IDEOに、世界で最もイノベーティブなショッピングカートを作らせるという企画がありました。そのチームのメンバーには、工学、マーケティング、経営学、言語学、心理学、医学といった異なる分野の専門家がいました。

(5)モチベーション

詳細に細分化された機能別組織では、自分のやった仕事ぶりが、会社の中でどれくらい貢献したかを理解しづらくなります。チーム制では、チームの結果がより身近になるため、それと自分の仕事ぶりの関連をつかみやすくなります。これによって、仕事のやりがいが増し、より良いものにしようとする動機付けになります。

チームワーク 2.0の負の面

 このように、新しいチームワークには、多くのメリットがあります。一方で、人が集団で仕事することによるデメリットがあるのも事実です。代表的なものを1つ挙げてみましょう。

 「よいチームは、1+1が3にも4にもなる」という表現を目にした読者も多いでしょう。しかし、期待とは裏腹に、多くの研究で、チームのパフォーマンスは、そのメンバーの最大のパフォーマンスの合計に満たないことが明らかになっています。残念ながら、1+1が2に届かないわけです。

 例えば、5人で綱引きをするとします。事前に各々が単独で最大限に発揮できる力を測っておきます。5人が一緒になって綱を引いたとき、理論的には綱を引く力の最大は全員の力の合計になるはずですが、何回実験を重ねても、綱を引く力は合計に満たないのです。このような実験は、運動能力だけではなく、問題解決など知的な能力についても同様の結果が出ています。

 なぜこのようになるのでしょうか。次回は、チームの負の面と、その原因について紹介します。

著者プロフィール

北原康富(きたはら やすとみ)

サイボウズ株式会社 シニアフェロー

早稲田大学 招聘研究員・非常勤講師

東京理科大学 非常勤講師

博士(学術)



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