同じ欧米企業でも組織や文化はさまざまだ。ここでは、個人型マネジメントの代表である米Appleと、チーム型マネジメントの代表である米HPを比較する。
前回は経営グローバル化のステップと欧米と日本企業の経営グローバル化の違いについて述べた。今回はグローバルな組織文化の要素と関係について述べる。
そもそも文化とは何であろうか。一口に文化といっても国や地域、年代、組織など幅広い視点がある。国別に文化を見ると、欧米人は往々にして論理的思考を軸に個人ベースで行動する傾向があるが、日本人は雰囲気や風土に依存し集団を単位として行動する。中国人は個人よりも家族が行動単位で、中近東だと宗教が行動指針となる。つまり文化とは、行動や志向を含む価値観の総体である。
同様に組織文化とは、組織固有な価値観の総体である。環境変化に応じて戦略的意思決定を行う判断基準になり、組織メンバーの行動を規範する。組織文化が異なれば、同じ環境の変化でも異なる行動が期待される。この組織文化のモデルは、たまねぎの形で表現でき、一つずつ皮をめくることで組織文化の核となる要素を見ることができる。組織文化の核とは無意識に共有化される基本的価値観であり、次の層には戦略や理念、社訓、スローガン、行動規範など組織メンバーの行動を判断する価値基準が存在する。最後に儀式や儀礼、空間的配置など基本的価値観と価値基準を反映したシンボルや行動がある。
基本的価値観とは、組織文化の大前提であり、組織や個人のとらえ方や時間的空間的な志向性を示す。この基本的価値観は、価値基準のみならず表層的に現れる多くのシンボルや行動に影響を与える。例えば、自社組織とは家族なのかコミュニティーなのか、組織の構成員は家族の一員なのか競争相手なのか、短期業績重視か長期成長志向か、といったことが基本的価値観となる。
具体的に、チーム型マネジメントの代表である米Hewlett-Packard(HP)と、個人型マネジメントの代表である米Appleの組織文化を比較したい。HPはチーム単位による参加型調和志向のマネジメントシステムを持つのに対して、Appleとはトップダウンの意思決定を中心とする個人型差別化志向のマネジメントシステムを持つ。同じ米国のIT企業にもかかわらず両極端な組織文化といえよう。
(出所:Organizational culture and leadership、Edgar H. Schein、HP website、デビッド・パッカード著 HP wayを参照)
HPの組織文化においては、組織は大家族であり、社員は家族の一員として扱われる。何よりも重視すべきは組織内部の調和を生み出すチームプレイである。チームの一員として組織目標に貢献することが重視され、一個人としてのアイディアや主張を強く押し出すことは敬遠される。明文化された価値基準である「HP way」では、チームワークが推奨され、目標や経営情報の共有化がうたわれている。リーダーとは、ファシリテーターでありチームの一員でもある。
なおHPでは、会議で強い自己主張をしていると後から呼び出され、協調性がないと注意されることもあるという。合意形成を種とした参加型調和志向のチーム型マネジメントの典型である。
他方でAppleの組織文化では、組織はコミュニティーであり、社員は一時的に同じコミュニティーに属している競争相手である。退社した社員はすぐに忘れられる存在であり、職場の自分のスペースはキャンプ場のテントと同様、いつか畳んで出て行かなくてはならない場となる。重要なのは未来の目標や過去の業績ではなく、今現在、一社員が何に貢献できるかである。集団での意思決定やチームワークではなく、個人が明快な責任と権限の中でトップダウン型の意思決定を行う。クリエイティブなアイディアを重視し、市場においての差別化に力点を求める。スティーブ・ジョブズ氏の個人主義でクリエイティブな人材がリーダーでありヒーローでもある。
多くの日本企業が体現すべきなのはHPの組織文化である。人間尊重や人への優しさを基本的価値観とし、共有すべき価値基準を定め、反映するシンボルや推奨する行動を示すべきである。チーム型マネジメントを掲げたリーダーシップは、組織文化を映し出す鏡の役割を果たすのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授