近ごろ何かと風当たりの強い「霞が関」だが、経済産業省ではマーケットの声に耳を傾け、ソーシャルのパワーを行政サービスに生かそうとしている。「ツタグラ」と名付けられた新プロジェクトでは、情報や知識を伝えるために広くクリエーターの力を募るという。
「ソーシャルのパワーを行政にも生かしたい」── こう話すのは経済産業省でCIO補佐官を務める平本健二氏。近ごろ何かと風当たりの強い「霞が関」だが、平本氏はITを活用したオープンガバメントの推進に取り組み、この秋も「CIO百人委員会・行政CIOフォーラム2011」や「CIO Japan Summit 2011」で情報発信に努めている。
平本氏はシステムインテグレーター最大手、NTTデータの出身。経産省の前身、通商産業省への出向で社会全体のインフラづくりに携わり、その面白さを実感する。いったんはNTTデータに戻ったが、CIO補佐官として「ユーザーサイド」の実務を担いたいと考え、現職に就いた。
平本氏が取り組むのは、大きく別けると「電子政府戦略」の推進と「ガバナンス」の2つ。前者が攻めのITであり、後者は守りのITとなる。一般の事業会社に置き換えても理解しやすいだろうし、政府も国民や企業を顧客とした公共サービスを提供する組織と考えれば、一般の事業会社と大きく変わることはない。
「マーケットで何が求められているのか、マーケットの中に入って声を聞き、取り入れていく必要がある」という平本氏の話は民間企業と同じだ。
経産省はクラウドサービスの活用にも積極的だ。ソーシャルメディアを活用とした情報発信はもちろん、さまざまなアンケートで寄せられた声を中立的に捉え、政策立案に生かすため、プラスアルファ・コンサルティングのSaaS型テキストマイニングサービスを導入するなど、フィードバックループを試行する。いわゆる「ソーシャルリスニング」と呼ばれる領域のひとつだ。
「データはどんどん開示していくし、クラウドソーシングも活用する」と平本氏。東日本大震災の影響で節電が求められている中、電力使用状況を分かりやすくグラフ表示するアプリケーションがさまざま登場しているが、これもクラウドソーシングの一例と言えるだろう。
経産省は10月31日、国や専門家の持つ情報や知識を視覚的に分かりやすく伝えるため、広くクリエーターの力を借りるプロジェクトも立ち上げた。「ツタグラ(伝わる infographics)」と題したサイトでは、環境問題や働き方など、社会的なテーマを扱う専門家から「お題」と「データ」が提示され、これらを基にクリエイターがインフォグラフィックを作成し、投稿する。クリエーターが著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができる著作権ルール「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」を付与する形で投稿できるほか、各種ソーシャルサービスと連携、作品に関してコメントを寄せることもできるという。
現在提示されているお題は、「縮小する日本を表現してください」と「エコ・ジレンマを表現してください」の2つ。今後のお題としては「これからの働き方について」などが予定されている。
「日本を牽引している自動車や家電も顧客のフィードバックを得て、磨きをかけてきた。政府も、かつての上意下達から、社会とともにより良いものをつくっていく形に変わろうとしている。霞が関は人員削減を進めているが、ソーシャルのパワーを行政に生かしながら“チームジャパン”でより良い行政サービスに努めたい」(平本氏)
政府ともなれば、その情報セキュリティに対する国民の目も厳しくなるが、予算は青天井ではない。むしろ、情報セキュリティで犠牲になりかねない「生産性」が大切であり、平本氏は「グッド・イナフ・セキュリティ」を重視する。
「情報セキュリティの水準をすべての分野で最高にすれば、当座は安心できるのだろうが、そのためには今の予算の何倍も必要になってしまうし、トレードオフになる生産性の低下に対しては、だれが責任を取るのか?」と平本氏。
これは一般の事業会社にもそのまま当てはまる。情報セキュリティ対策に「絶対安全」はない。壁をどんなに高くしても越えられてしまうだろうし、ウィキリークスの例にもあるとおり、内部からも機密情報は漏れてしまう。何のために、何を、どこまで守るのか? 社員の生産性や創造性の発揮を阻害しないのか? これらを問うことが情報セキュリティには欠かせない。
「日本企業は、ITの活用度が低い、と指摘されているが、きちんとした数値を基にソフトウェアや運用保守の品質を高めていくことが重要。そのためにはIT人材を流動化させ、ユーザーにもベンダーにもプロフェッショナルが配置されることが求められる」と平本氏は話す。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授