大学を出たばかりの若手編集者が、周囲の人に揉まれ、仕事に揉まれながら一人前になっていく姿を描いた。若い読者にも読んでほしい一冊。
今回は新刊『飲めば都』を刊行した北村薫さんです。
大学を出たばかりの若手編集者が、周囲の人に揉まれ、仕事に揉まれながら一人前になっていく姿を描いた本作は、20代〜30代の若い読者にこそ読んでほしい一冊。
この物語ができたあらましや、キーワードとなっている「酔っぱらい」についてお話を伺いました。
――本作『飲めば都』について、まずは最初の着想についてお聞きしたいのですが、舞台として出版社を選んだのにはどのような理由があったのでしょうか。
北村:「最後のエピソードの元になった話を人から聞いたのが最初です。朝方帰ってきたら家の人がバットを持って階段のところに立っていた、というものなのですが、それを聞いて、これは面白いなと思ったんです。
もちろん、それだけだとただのエピソードで終わってしまうのですが、これに“酔っぱらい”をくっつけて、膨らませていくとこうなるな、とイメージできたので、じゃあ酔っぱらいの面白いエピソードを探そうということになりました。そこで、身近な編集者の方々にお話を聞いたら本当にいろいろなものが出てきたので、これで一冊書けちゃうなと、そういう流れですね」
――本作には酔っぱらいのエピソードとして「酔って帰ってきたら、転んで脚が血だらけなのにズボンは汚れていなかった」、「お酒を飲んだ翌朝、気がついたら下着がなくなっていた」など、ちょっと信じがたいものもありましたが、実話だったんですね。
北村:「あれは不思議ですよね。結局何が起こっていたのか本人にも分からないみたいですけど。でも、この本に書いたものはまだ優しい方ですよ(笑)あまりにひどすぎて、これは書けないな……というものもたくさんありました」
――ちなみに、酔っぱらいのエピソードの聞き込みはやはり本作の版元ということで新潮社の方にされたのでしょうか。
北村:「新潮社の方も確かに多いですけど、他の会社の編集者の方にも会うとよく聞いていました。だから出版各社の酔っぱらいのエピソードが集められています(笑)」
――お酒に対する愛情がうかがえる本書ですが、北村さんご自身もお酒をよく飲まれるのでしょうか。
北村:「実はあまり飲まないんですよ。だからお酒に対する愛情というよりは、人に対する愛情ですね。お酒を飲むことで本音や隠していることが出てしまうことがあるじゃないですか。その本音の出方は人それぞれですが、締めていた箍(たが)がお酒で弛むことでドラマが生まれるのではないでしょうか。その本音には、それを語る人や、語らざるを得ない背景などがあるわけですから」
――北村さんご自身のお酒での失敗談がありましたら教えていただけませんか。
北村:「酔って記憶をなくしたことはないですし、失敗はあまりないですね。自分が酔っぱらいならこの本を書く必要はないですよ。実行すればいいので(笑)」
――わたしも酔って記憶をなくしたりはしないタイプなのですが、だからこそ本作で描かれた酔っぱらいの世界が面白く感じられたのかもしれません。
北村:「こんな世界があるのか、こんな人がいるのかと思いますよね。色々な人からお話を聞いていると、エピソードコレクションのようになって面白かったです。わたしの著書ではありませんが、新潮社から酔っぱらいのエピソードを集めた文庫が出ていますよね、『酔って記憶をなくします』と『ますます酔って記憶をなくします』という……」
――本作で北村さんが一番描きたかったものとは、一体何だったのでしょうか。
北村:「この作品の舞台は出版界ですが、その中で生きている人々の成長といいますか、右も左も分からないところから段々と育っていく姿だとか、彼らが織りなす人間模様でしょうか」
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明治学院大学 経済学部准教授