「IT ブランド」 を確立するということは、IT がビジネスに提供する価値を約束し、これを守ることだ。
クラウドや、モバイルというような言葉が、経営トップやビジネス部門のトップから興味を持って尋ねられることが多くなったと、CIOやITエグゼクティブの皆さまは感じているのではないだろうか。これは、IT部門に対する期待が、かつて無かったほど高まっていることによる顕著な現象の一つとガートナーでは見ている。このような環境下においてCIO は、ビジネスからのIT への信頼を得ることも、失うことも可能である。強力な「IT ブランド」 を確立するということは、IT がビジネスに提供する価値を約束し、これを守るということだ。
企業のIT 部門は、クラウドプロバイダーによる外部からの競争にさらされている。また、ビジネスの最前線(フロントオフィス)から、携帯端末やスマートフォンの導入、有効活用について、多くのリクエストを聞くようになったが、セキュリティの課題や、そもそもこれらの領域がCIO/IT部門が担当すべきかどうかも含めて不透明なことが多く首を縦にふれない場面も増えているだろう。
しかし、CIO が自社において自らの存在意義を維持するためには、従来までのバックオフィスマーケットから、ビジネスの最前線であるフロントオフィスへと視点を移さなければならないことは明白である。バックオフィスからフロントオフィスにシフトするということは、「従来市場」から「隣接市場」に進出するに等しい。この際には、IT ブランドに細心の注意を払うことが必要である。CIO が自分でIT ブランドを確立しなければ、周囲のエグゼクティブやIT ユーザーによって形成される。
このようにして形成されたIT ブランドは、決して魅力的なものとは言えない。ガートナーの2011 年度CIO Agenda Surveyのほか、ガートナーがMIT Sloan School of Management のCenter for Information Systems Research(CISR)と共同で実施したリサーチから明らかになったことは、企業のフロントオフィスにおけるデジタル化のレベルが驚くほど低いということだ。
フロントオフィスのデジタル化とは、言い換えれば、売り上げ、ユーザーとの絆(ユーザーエンゲージメント)、新商品/新サービスの開発/バンドリングを促進する「マーケティング」「営業」「商品開発」の各領域にテクノロジを配備することである。フロントオフィスのデジタル化のレベルが低いという新事実は、ガートナーによるCEO/Executive Surveyにおいて収集された回答とは、好対照と言えよう。
同調査では、ビジネスリーダーが隣接市場への参入をテクノロジが強力にバックアップすることを期待しているのが明確に示されたのである。自社が、テクノロジを生かして隣接市場への事業参入を成功させるためには、IT 部門自身が自分の「隣接市場」、すなわち、自社ビジネスのフロントオフィスに関与しなければならない。今日に至るまで、IT 部門がフロントオフィスにおけるビジネスソリューションの信頼あるパートナーとして見られるのは、残念だが稀であったと言わざるを得ない。
つまるところ、IT 部門がバックオフィスからフロントオフィスへの移行を果たせるかどうかは、ブランディングの問題である。IT 部門が信頼あるパートナーとして見られるか、単にテクノロジソリューションのリーダーとして見られるかどうかは問わない。
IT 部門は、フロントオフィスへの移行に着手するためだけに、何よりもまず、イノベーターとしての強いIT ブランドを確立しなければならない。移行に着手したら、フロントオフィスのビジネスソリューションプロバイダーであるというIT ブランドを確立し、自社ビジネスが隣接市場に参入する上で必要な変革(トランスフォーメーション)をサポートする必要がある。
米国を拠点とした、蒸留酒業界のCIOにガートナーがインタビューを行ったところ、同氏は、フロントオフィスへのチャレンジを次のように要約した。「効率化には目をつむり、利益創出のためにテクノロジをいかに活用するかだけにフォーカスしなければならなかった。」そこに、ガートナーがもう1つ追加するとすれば、IT部門は、このようなゴールを最低限の約束として設定する必要がある。そして、IT部門はこの約束を必ず守るという内部パートナーとしての信頼を醸成して、フロントオフィスソリューションの信頼あるプロバイダーとして見られなければならない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授