高度経済成長期の大量生産ではアウトバウンドでよかった。しかし今後は、顧客がわざわざ来てくれるインバウンドマーケティングを目指さなければならない。そのための手助けとして、ウェブサイトやソーシャルメディアをうまく活用することが重要になる。
「例えば宣伝色を出すのではなく、お客さまや他人が取り上げたつぶやきをうまく利用する。リプライが5割、会話が3割、発信が2割のバランスが秘訣となる」(柴崎氏)
ソーシャルメディア上のやりとりを見せることで、企業の対応の良さやお店のサービスをアピールすることができる。モノやサービスの押し売りはマスメディアに任せ、ソーシャルメディアでは別のモノを売り込む。例えば新しいライフスタイルの提案や感動のエピソードの共有、開発秘話、創業者や経営者、従業員の思い、社会貢献活動などを紹介することで、商品に対する愛着を感じることもできる。
インターネット上の購買活動で不安に感じるのは、販売者への不安、商品への不安、サポートへの不安などだ。「個人的には、はじめは販売者に対する不安が最も気になった」と柴崎氏。そこでモノやサービスを売り込む前に、人柄やキャラクターを売り込むことも重要になる。
「特に弁護士や税理士、医者など、プロフェッショナルサービスを職業とする人は、プロフィール欄の写真にこだわりを持つべき。また、あなたの会社がお客様とのコラボレーションを通して、新しい価値を創造したいのであれば、ソーシャルメディアのプロフィール欄は、ほかのコンテンツよりも、いの一番に充実すべきである」(柴崎氏)
また顧客を好きになり、この人はどんな人だろう、どんなことに関心を持っているのだろうといったことを、日ごろから考える習慣を身につけることも重要になる。ソーシャルメディアで適切な回答をすることで、人々の不安を解消し、ロイヤルティを向上させ、共感を得ることを可能にする。
「いまや商品やサービスの開発プロセスに、より多くのお客様を巻き込み、よりよいモノを創り出す"共創の時代"が訪れている。この共創体験を通じて、ロイヤルティが生まれ、企業や店舗の応援団が誕生する」(柴崎氏)
モノやサービスを購買する前に、顧客をファンにしてしまうには、次の5つの法則がある。
法則1:ターゲットとなる顧客をイメージする。
どんな顧客なのかをペルソナ(架空の顧客像)でイメージする。よりイメージしやすくするために写真を使う。ペルソナを設定することで、チームで顧客像を共有しやすくなる、行動パターンを創造しやすくなる、自社商品のポジショニングを検討できるなどの効果がある。
法則2:ソーシャルメディア上のやり取りから顧客の心理を感じる。
過去の発言内容を分析することで、顕在化しているニーズや潜在的なニーズを推測し、対面販売以上に事前期待を読むことができる。事前期待を把握するためには共感性を発揮することが重要。共感性は日本人の気遣い、おもてなしのこころに通じる。
法則3:モノやサービスの事前期待で顧客を分類する。
顧客をペルソナに例えてイメージする方法をさらに進化させると、モノやサービスへの事前期待で顧客をセグメントに分類できる。
法則4:さまざまな事前期待に応える。
事前期待の持ち方には、共通的、個別的、状況による変化、潜在的の大きく4つの期待がある。どの事前期待に適応するかでサービスの評価が決まる。例えば共通的な事前期待では、マニュアル化で対応。誰もが期待しているサービスを期待できないと顧客を喪失する可能性が高い。
また個人的な事前期待では、ソーシャルメディア上のプロフィールや趣味、指向、履歴などを分析。状況で変化する事前期待は、瞬間の事前期待を察知して対応することで感動を与えることができる。さらに潜在的な事前期待に応えるには、顧客を好きになり、興味を持つことが重要になる。
また柴崎氏は、「事前期待に応えるのは、ある意味、恋愛の駆け引きに似ている」と話す。
法則5:ソーシャルメディアで事前期待をマネジメントする。
過度に事前期待が高すぎたり、低すぎたりすると顧客の離反につながる。またモノやサービスに対する事前期待は、適切なレベルに維持しなければならない。
顧客にファンであり続けてもらうためには、共感を得ることが重要になる。共感には、企業やお店への共感、発信者への共感、情報への共感の3つがある。
「近江商人の商いの心得に"三方よし"がある。買い手よし、売り手よし、世間よしというものだが、買い手はお客様、売り手は企業や店舗、世間は社会を意味する。ソーシャルメディアとサービスサイエンスの組み合わせを、この三方よしの世界に役立てることができるのではないか。そして事前期待のマネジメントが実践されることで、リアルの世界以上に心地よい世界が実現されるだろう」(柴崎氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授