長引く景気低迷の中にあって、業績が今なお右肩上がりで推移しているジョンソン・エンド・ジョンソン。成長し続ける企業に秘訣はあるのか。
世界60カ国に250以上のグループ企業を有し、総従業員12万8000人の陣容を誇る世界最大のトータルヘルスケアカンパニー、ジョンソン・エンド・ジョンソン。日本で事業活動を開始したのは1961年のことだ。以来「バンドエイド」など消費者向け製品をはじめ、医療機器や診断薬、医薬品などを次々に導入しビジネスの拡大を図ってきた。長引く景気低迷の中にあって、業績は今なお右肩上がりで推移しており、そのブランド力はここ日本でも不動のものとなっている。
2012年1月に就任した日本法人の社長日色保氏に同社の成長戦略について話を聞いた。
「イノベーションを“技術革新”と訳すならば、決して技術革新をビジネスの出発点としないこと。それが長年にわたり、成長を継続できた最大の理由だ」――日色氏は同社戦略の本質をこう話す。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのビジネスに対する姿勢は徹底している。それは「カスタマーインサイト」つまり顧客の潜在的な欲求や不満を掘り起こし、それを出発点に製品開発やサービスの提供を行うことだ。
「さまざまな企業がやってきて“こんな技術を開発したので何かに応用できないか”と相談を持ちかけてくる。しかし、そのほとんどは使えるものではない。理由は簡単だ。顧客のアンメットニーズに寄り添っていないからだ」(日色氏)
アンメットニーズとは医療用語で、まだ有効な治療法が確立しておらず、医薬品などの開発が進んでいない分野における医療ニーズのことだ。
これはすべてのビジネス分野において共通していることだが、特に医療分野では顧客が有用性を感じているものでない限り、製品やサービスが市場に受け入れられることは決してない。そのため、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、常に顧客である医師や看護師などの医療従事者とその患者のアンメットニーズを出発点に、製品開発を行っている。
医療分野は技術の進歩が非常に激しく、20年前には想像もできなかったようなことが技術革新によって次々と実現し、今では当たり前にように行われている。その中にあって同社は研究開発型の企業を追求する。どの医療メーカーでも簡単に製造できるような製品を、安く大量に販売するというビジネスモデルの企業ではない。
「技術ではなく、まず顧客ありき。常に医療現場において、顧客が置かれている状況を深く洞察し、解決すべき課題に対して必要な技術を開発するという流れを取っている。われわれの成長戦略は何かと聞かれたら、この姿勢を徹底的に守るということだ」(日色社長)
グループ全体における研究開発費の占める割合は、総売上高の約11%にも達する。金額に換算すると、2010年度実績で約68億ドルにも上る。ヘルスケアビジネスのみならず、すべての産業の中でもトップクラスの投資額だという。
新製品の総売上高に占める割合も約25%に達しており、この比率は長期間にわたり維持している。これはジョンソン・エンド・ジョンソンがアンメットニーズに基づき、製品開発を継続的に行ってきたからにほかならない。
「ポートフォリオ戦略に基づき、企業の買収、分離、売却といったことは行ってきた。しかしそれは、儲かりそうだから買収する、儲からなくなったから売却するといったものではない。弊社が手掛ける価値がある事業かどうかが、唯一の判断基準だ」(日色社長)
そして、その価値を決める指針となっているのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのコアバリューである「我が信条(Our Credo)」である。
「我が信条」は、1943年に打ち出された「企業は顧客、社員、地域社会、株主に対して責任を持たなければならない」という経営哲学を基にする企業理念・倫理規定で、世界中の従業員一人ひとりに確実に浸透しているという。
ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、配属部署に関係なく、顧客からアンメットニーズを引き出す能力の養成に主眼を置いた人材育成が行われている。
「例えば、営業担当者に対しては広範囲にわたり独自のトレーニングを行う。中でも、徹底して教え込むのは、顧客をきちんと理解しようとする姿勢の大切さだ。そのため、マニュアルに従い決められた手順に沿って営業活動を行うのではなく、自分が置かれた状況の中で自ら判断し、最適に行動するという能力が求められる」(日色氏)
とはいえ、人命にかかわる責任の重大な業種だ。顧客に対して誤った情報を伝えるといったことは決してあってはならない。当然のことながら、医療や製品に関する教育は徹底して行われている。
人材開発にも定評がある。社内の教育プログラムのひとつとして、「J&J ユニバーシティー」が設置されており、従業員はやる気や必要性に応じてネゴシエーションスキルや英語などさまざまな研修を受講することができる。
J&Jの人材開発の中でも、特徴的なのが、社長など経営者層に対する教育プログラムも用意されていることだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授