次代に生き残る企業になるためには、イノベーションが必須である。しかし、そのイノベーションの芽を「何となく危険」だからという理由で、摘み取っていないだろうか。
前回、CIO アジェンダ 2013の内容について、説明しました。勘の鋭い読者は、既に気付いていると思いますが、2011年に入ってから、ガートナーは、従来のITやICTという表現から、デジタル・テクノロジと言い換えて、新たなる時代の到来を予言してきました。そして、2013年に入って、旧来の情報システムの導入で成功体験を得てきたオールドタイプのCIOが、新たなるデジタル・テクノロジを活用してビジネスの構造そのものを変革しようとするニュータイプの人々(おおむね若者)を、既得権益を発動して駆逐しようとする動きが見え隠れしています。
社内からは、Twitter や、FacebookなどのSNSにアクセスすることを禁止している企業が少なくないと聞きます。理由は、セキュリティ面に配慮したたためです。会社のネットワークからは、これらのソーシャルメディアにアクセスできないようになっていたり、ちょっとマシな企業でも、読むことはできても、書き込みはできなくしていたりします。
「人の口に戸は立てられぬ」ということわざがあります。今更、ことわざの意味を説明する必要はないでしょうが、セキュリティ面での配慮で、SNSにアクセスすることを禁じているならば、超真面目に考え直すことを勧めます。そもそも、社外で仕事をすることが多い営業員などは、携帯やタブレットで、訪問先で「チェックイン」しています。正確にビル名や会社名などを入力しなくても、どの辺りからメッセージを書き込んだか分かってしまい、訪問先企業名など、業界関係者なら筒抜けになっていることでしょう。
昨年の11月に発表した「Gartner Predicts 2013」でも「2017年までに、従業員によるモバイル・デバイスでのコラボレーション・アプリケーション使用の増加により、企業のコンタクト情報の40%がFacebookに漏洩する」と予測しています。これは、従業員に対してFacebookの利用を全面的に禁止するように警告しているのではありません。むしろ逆で、Facebookに漏洩することを前提に、どの企業・業界にアプローチしているのかというコト以外で、自社の競争優位性を確立させることを勧めているのです。どうせ、「人の口に戸は立てられぬ」のですから。
筆者は、いろいろなところで講演をしています。特に、企業内の研修目的で講演する際には、最近は必ずこう言うことにしています。「Facebookで、わたし宛にお友達申請してください。」と。出席者の半分くらいが申請してくれる企業もあれば、せいぜい、2〜3パーセント程度の企業など、いろいろと特徴があります。読者の皆さんはどちらの会社が次代の生き残り組だと思いますか? もちろん、Facebookのユーザが多いからと言って、次代の生き残り組だと断言するつもりはありません。しかし、生き残り要素の大きな部分を占めていると思いませんか? かの、ワーク・シフト(リンダ・グラットン著)でも、オンラインでつながるコミュニティは、イノベーションの源泉として重要視しています。
次代に生き残る企業になるためには、イノベーションが必須であることは、わたしが殊更に述べなくても、読者の皆さまは当たり前に認識しているでしょう。しかし、そのイノベーションの芽を摘み取るような「規則」を、「何となく危険」だからという理由で、何の疑いもなく作って運用しているのです。本当に「危険」なのは、イノベーションの芽を摘み取る「何となく危険」と考えてしまう(概ねオールドタイプ)の人なのです。そして、残念なことに、オールドタイプの人の意見の方が通ってしまう企業体質そのものが怖いのです。
ガートナーでは、5年ほど前に「企業内に、企業が好むと好まざるとに関わらずApple端末が30%程度導入されるようになる」と、戦略的プランニングの仮説事項(SPA)としたのですが、その理由に企業がPCやタブレット端末などを個々人に買い与えるのではなく、個人所有の端末が企業内に持ち込まれるようになるからだとしました。この5年の間に、パソコンのMacを企業内に持ち込む人がどれほどいたかは分かりませんが、少なくともiPhoneやiPadを企業内に持ち込む人は、圧倒的に増えたように思います。
しかし、それらは、社内のメールが自由に取得できたり、もちろん社内のネットワークに接続を許可している企業は極少ないと言っていいでしょう。理由は、前出と同じ「危険」だからです。BYODとは、個人所有のデバイスを、社内のネットワークにアクセス、業務利用させることです。会社で購入し、セキュリティ対策を施したもの以外を社内のネットワークにアクセスさせるなど「危険極まりない」という理屈です。しかし……アクセスする人は、社員ですから、デバイスが会社のものでなくても問題ないと思います。
ガートナー社内では、iPhoneやiPadは個人所有のものを社内に持ち込むことをグローバルレベルで承諾しています。会社のメールを、社内外で取得できますし、送信もできます。自宅などの社外から、VPNを経由して社内のデータベースにアクセスもできます。それどころか、世界中のどこのガートナーオフィスでも、何のストレスもなく(つまり、国内と同じ環境で)、個人所有のiPhoneやiPadを接続することができます。
「それは、ガートナーだからでしょ?」と言われるかもしれませんが、ガートナー社員のわたしが知る限り「危険」を感じたことはありません。そして、このような環境を構築するのに、巨額な投資をしたということも聞いたことがありません。BYODは、企業にとっても、従業員にとっても良い話です。企業は、多種多様な端末に投資しなくても良いですし、しかも、モバイル端末は、次々に新型機種が発売され、決断が遅い企業では、とても次代の波に追随できません。
しかし、個人が個人の責任で投資してくれれば、コスト削減につながること間違いありませんし、従業員も会社用と私用と2台持ちの必要がなくなるわけですから便利です。しかも、自身で購入して、自身でメンテナンスして、自身で会社のネットワーク環境に合わせるのですから、自分の気に入ったように使う。自分の気に入ったように使う訳ですから、自身が持つ創造力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスをあげることができるわけです。BYODを実施しないことにより、本当に「危険」なことは、第4の経営資源である「情報」を使ったワーク・スタイルを創造させないとするオールドタイプの暗黙の方針を押しつけることなのです。「うちは、情報後進企業だからなぁ」と社員達に揶揄されるようになったら、もう手遅れです。次代を生き残ることは不可能な企業にリストアップされているかもしれません。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授