空気のように存在する「常識」に挑戦するマインドがあるか? 結果の問題ではなく、それは気概の問題だ。
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ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。
伝説の「松下村塾」。10畳と8畳の2部屋しかない塾。そこで、吉田松陰が教えたのはわずか2年半。そんな松下村塾が高杉晋作や伊藤博文(初代総理)を送り出した。品川弥二郎(内務大臣)、山県有朋(第3代/第9代総理)、山田顕義(國學院大學と日本大学の創設者)もここで学んだ。
結果的には、総理大臣2人、国務大臣7人、大学の創設者2人を輩出した。
こんな塾は世界でも類を見ない。本書「覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰」では、その熱く時代の常識を破っていったリーダー吉田松陰の考え方を、現代の人たちに向けて分かりやすいように「超訳」として176の言葉を紹介している。
混乱する幕末の中で、数々の偉人を輩出した吉田松陰の教え。まさに現代のように混迷する中で、道を切り拓こうとされているリーダーにささげる書である。
本書は6つの章から成る。
第1章「心 MIND」 自分の人生を歩むために心といかに向き合うか
第2章「士 LEADER」 リーダーとはいかにあるべきなのか
第3章「志 VISION」 偉人のカギはビジョンを決めることにある
第4章「友 FELLOW」 あなたはひとりじゃない
第5章「知 WISDOM」 学問の神様までになった吉田松陰の学びに対する姿勢
第6章「死 SPIRIT」 30歳でなくなった吉田松陰が全身全霊を込めた「生きるとは」
本コラムでは、この6つのポイントから、道を開くリーダーシップについてまとめてみたい。
幕末、ペリーの黒船が来航したとき、3発の大砲で江戸は大混乱に陥った。しかし、松陰はその技術の差を目の当たりにし、日本の未来を見据え思い切った行動に出る。
「海外密航」を試みるのだ。海外渡航をすればもちろん死刑である。
松陰は言い残した。
「今ここで海を渡ることが禁じられているのは、たかだか江戸の250年の常識にすぎない。今回の事件は、日本の今後3000年の歴史にかかわることだ。くだらない常識に縛られ、日本が沈むのを傍観することは我慢ならなかった。」
盗んだ小舟で荒波の中をこぎ出して、黒船の甲板に乗り込んだ。その覚悟と好奇心の異常さに、アメリカ艦隊は動揺し、ペリーも感嘆した。
空気のように存在する「常識」に挑戦するマインドがあるか?
結果の問題ではなく、それは気概の問題だ。
「士」とは、身分のことを言うのではなく、その命の扱い方によって決まる。「命を使う」とは、現代では「時間を使う」ということに置き換えられる。われわれは、生まれたときから死に向かいつつある。つまり、時間とは、命なのだ。
松陰は「士」についてこう言い残している。
「士の命はときに一毛よりも軽く、ときに山よりも重い」
「何のためにこの命を使うのか?」それがハッキリしていれば、自分の死すべきとき、そして、決して死すべきではないときがハッキリすると教えている。
リーダーとは、役職ではなく、自分の命(時間)、そして、自分についてくる部下の命(時間)の使いどころを知っている人物である。
あなたの命の使いどころは何だろうか?
いつの時代も、名誉や富を求める「私欲」がひとの心を惑わせる。しかし、私欲の先に「公欲」をもつことができるかどうかが、リーダーの境目だ。「私欲」とは「わたしはこれがほしい」「わたしはこうしたい」「わたしはここに行きたい」というような「自分ごと」だ。「公欲」とは「こんな世の中になったら、多くのひとにとって素晴らしい」というような「ひとの喜び」だ。あなたの志はこの「公欲」に基づいている必要がある。それだけが、より多くの人を動かすことができるからだ。
松陰はこう言い残している。
「わたしの日本を想う志は、誰でもが分かるものではありません。しかし、人は知らなかったとしても、この蒼天はきちんと分かってくれている。この身体だけでみたらちっぽけなことだ。それでも、この身で、日本の未来をつくる礎を担いたいのだ。」
松陰は、山口県の名も知れぬ村で志を立てた。
「松下(まつもと)村は、名もない小さな村かもしれない。しかし、必ずやこの日本国を担う大きな幹となろう」
あなたは何を担いたいだろうか?
あなたはどんな未来の礎を担いたいだろうか?
松陰は本当にたくさんの人に慕われていた。それは、役人だろうが、牢獄の番人だろうが、弟子であろうが、誰でも同じスタンスで接していたからである。
松陰はこう言い残している。
「わたしは、人が去って行くときには、その人がどれだけ素晴らしい人だったかを心に留めておきたい。」
あなたは自分と接している人のすばらしいところをどれだけ心に留めているだろうか?
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明治学院大学 経済学部准教授