未来に挑戦し続けるIBM研究所が、今取り組んでいるテクノロジーとは?
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は9月10日、「変化するビジネス、進化するテクノロジー、CIOのチャレンジ」をテーマに「IT Leaders' Vision 2013」を開催。米IBM Corporation ディレクター クラウド・イノベーション・テクノロジー担当で、IBMトーマス・J・ワトソン研究所のダニエル M. ディアス氏が、「先進テクノロジーがビジネスとITにもたらす革新」と題した講演を行った。
「本日は、2つのテクノロジーについて話をする。未来を形成する2つの新しいテクノロジーについてである。1つは“オープン・クラウド・コンピューティングとソフトウェア定義型環境(Software Defined Environment:SDE)”であり、もう1つは“Cognitive Computing(認識するコンピューティング)とアプリケーション”である」(ディアス氏)
ディアス氏が所属するIBM研究所は、全世界11カ所に設置され、3000人を超える研究者が、先進技術を適用することで、企業が直面する課題を解決し新しいイノベーションに導くための研究を行っている。日本の研究所である「東京基礎研究所(IBM Research - Tokyo)」は、1982年にアジア地域で初のIBM基礎研究所として設立されている。
「IBM研究所では、IT分野における新たなテクノロジーを輩出してきた。例えばスーパーコンピュータプロジェクトのBlue Gene、質問応答システムのWatsonなど。過去20年で最多の特許を取得しており、5人の研究者がノーベル賞を受賞したほか、多くの研究者が国家技術賞を受賞したり、発明殿堂入りしている」(ディアス氏)。
こうしたIBMの研究開発は、常に顧客指向で行われてきたという。「先進の技術開発は、先進の業界をリードする皆さまの声が重要になる」とディアス氏は話している。
現在、主要なテクノロジーは、4つめの波を迎えている。1つめの波はメインフレームによるバックオフィスコンピューティングであり、2つめの波はPCによるクライアント/サーバ、3つめの波はWorld Wide Webによるe-ビジネスである。そして現在、ソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータ/アナリティクスによる4つめの波を迎えている。
ディアス氏は、「このテクノロジーの大きなうねりは、メインフレームやPCを中心とした“プログラムにより動くシステムの時代”から、インターネットやソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータ/アナリティクスによる“自立的に認識するコンピュータの時代”に移り変わっていることを意味する」と言う。
自立的に認識するコンピュータの時代において重要になるのがオープン・クラウド・コンピューティングである。「クラウドには、3つのバージョンがある」とディアス氏。クラウド1.0ではコスト削減が注目され、クラウド2.0ではプラットフォームの最適化が主眼となった。そしてクラウド3.0にあたるのがソフトウェア定義型環境である。
ディアス氏は、「ソフトウェア定義型環境によるクラウド環境は、ビジネスへの機敏な対応と継続的な可用性を実現するSystems of Engagementと企業の効率性と継続性を実現するSystems of Recordを両立する新しいアーキテクチャである。データの一貫性を保ちながらスマートなデバイスとアセットを利用可能にする」と話している。
IBMが取り組むCognitive Computingの分野の1つが質問応答システムであるWatsonだ。Watsonは米国時間の2011年2月16日、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」において最高金額を獲得したことで、その名を広く世に知らしめた。Watsonについてディアス氏は、次のように語る。
「Watsonは、IBMが開発した新しいテクノロジーである。人間の問いあわせに対し、どうすれば正確な回答を短時間で導き出すことができるか、次に求められるものをいかに類推するかを具現化するものだ。現在、Watsonで培ったテクノロジーを、どのような分野に応用できるかを研究開発する段階に入っている」(ディアス氏)
Watsonの本質は、紙の文書や画像、音声、ビデオのような一般的なリレーショナルデータベース(RDB)では管理できない「非構造データ」と、RDBに格納され、厳密に管理されている「構造化データ」という、まさに対極にある2種類のデータを通じて、効率的な意思決定を支援することにある。
非構造データは、表面的な理解のみで精度には限界があるが多くのデータを網羅できる。一方構造化データは、意味する内容が明らかであるが柔軟性に欠け、作成コストが高く網羅性も限定的である。Watsonは2つのデータのいいとこ取りにより、理解の深化や精度の向上、タイムリーな網羅性、知識作成コストの削減を実現している。
Watsonをクイズ番組以外の分野に適用するためには理解、対話、説明づけ、学習の4つの段階がある。例えば「答えが一意に定まる質問」を理解し、「質問を入力して答えを出力」する対話を行い、「正確な答えと確信度の推定」を説明づけして、「バッチ処理による学習」を繰り返す。
ディアス氏は、「医者が患者を診断する場合、状態や経過などの一連の情報から患者を理解することが1つめのシナリオ。2つめのシナリオは、インタラクティブな対話により病名という解答を得て、3つめのシナリオで根拠をもとに病名の説明づけを行う。さらに4つめのシナリオでは、継続的な訓練や学習プロセスにより専門知識を高めていく」と語る。
またインドのIBM研究所では、Watsonをコールセンター業務に適用するプロトタイプも開発されている。ディアス氏は、「コールセンターの担当者が、顧客からの問い合わせに対応する場合、履歴データから自動的に類似する問い合わせの解答を見つけ出すことで、顧客との対話を支援することができる」と話している。
今後のITシステムの進化についてディアス氏は、次のように語る。「Watsonの威力を発揮できる領域は数多くある。現在、IBM研究所が行っている実験的なリサーチが、“Cognitive Computing”をいかに活用していくかという領域である」と語る。
Cognitive Computingを活用することで、ITシステムはシステム構成や最適化、問題解決のための複雑なタスクを自動化することができる。またテクニカルサポート/サービスでは、ローカルおよびリモートのサポート要員に、マルチサイロの専門知識と積極的な問題回避タスクを提供できる。さらにITデリバリーでは、環境の変化によるリスクを軽減し、複雑なプロセスと自動化から生じる問題を迅速に解決することが可能になる。
講演の最後にディアス氏は、「Watsonのテクノロジーを適用することで複雑なプロセスを自動化し、情報を収集して、適切な診断に生かしていく。さらにシステムで今何が起きているのかを把握し、原因を特定して解決策を自動的に発見する世界を切り開いていく。どうすれば人間が究極の想像力を発揮できるのか、そのためにCognitive Computingがどのように貢献できるのかを見きわめていくことが今後のビジョンになる」と話し講演を終えた。
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