グローカライズで世界に羽ばたく即席麺海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(1/2 ページ)

海外展開に成功した即席麺は現地の日常の食生活に溶け込んでいる。いかに早く現地の食文化に広く深く溶け込むかが海外展開での競争優位性を決める。

» 2013年10月03日 08時00分 公開
[井上浩二、小林知巳(シンスター),ITmedia]

 メキシコの即席麺市場が年々拡大している。その中で約85%のシェアを占めているのは、日本でもなじみ深い東洋水産のMaruchan(マルちゃん)ブランドであるこの圧倒的なシェア自体驚異的だが、それ以上に驚かされるのは次のようなエピソードだ。

 ・メキシコで、国会が審議を早々に打ち切った時に、新聞は「議会がマルちゃんした」と報じた。

 ・2006年サッカーのワールドカップでのメキシコ代表の速攻は、「Maruchan作戦」と呼ばれた。

 メキシコにおいて、「マルちゃん」は単に食品としての普及のレベルを超えて、「簡単にできる」「すぐできる」という意味の言葉として浸透しているのである。

グラフ1:メキシコにおける即席麺の市場規模推移(出所:2010年3月JETROレポート)

 海外で広く浸透した即席麺ブランドは、マルちゃんだけではない。例えば、香港では日清の「出前一丁」がそうだ。スーパーの乾麺の棚の多くを占めているばかりでなく、香港の伝統的な喫茶店や粥専門店で提供される麺のメニューにもごく当たり前のように載っている。

 海外展開に成功した即席麺は、あたかも現地で生まれた食品であるかのように、日常の食生活に溶け込んでいる。逆に見れば、いかに早く現地の食文化や日常の食生活に広く深く溶け込むかが、即席麺の海外展開での競争優位性を決めると言える。

日常食として徹底的に現地に溶け込む

 即席麺は、日常食として日々の食生活の中で消費されるものであり、ターゲット層はBOP(Base of the Pyramid:低所得者層)が中心である。この層に浸透するためには、安価であることは言うまでもなく、食べやすくて飽きがこないこと、手軽に調理できることなどが条件となる。即席麺メーカー各社は、これを進出したマーケットで徹底的に行っているのである。例えば、マルちゃんはチリソースをかけたりライムを搾ったりしてアレンジして食べるメキシコの食習慣に合わせ、スープの味が薄めになっている。さらに、消費者からの要望に応え、「レモン&ハバネロ」というメキシコ人が好む酸味と辛みを強調した商品も投入している。その結果、米国に出稼ぎに来たメキシコ人が土産として持ち帰ったことから進出したメキシコで、今や10〜35 歳までの若年層では伝統料理をしのぐほど浸透し、伝統料理が衰退することへの危機感が持たれるほどまで普及しているのである。

 また、日清食品は、カップヌードルを米国やヨーロッパで展開する際に、主食としてではなくスープとして食されることに着目し、麺を短くしてスプーンですくえるようにしている。更に、スープの味や麺だけでなく、パッケージデザインもローカライズが徹底している。例えば、カップヌードルのパッケージは日本では白地が基調だが、タイでは赤を強調するなど国によって嗜好性に合ったものに変えている。メーカーによって細部の手法は異なるものの、全メーカーが自社商品を現地に溶け込ませるためのきめ細かい努力を徹底しているのである。

「グローカライズ」が海外展開成功の鍵を握る

 しかしながら、現地化を徹底して食文化に溶け込むだけで成功できるのかと言うと、話はそう単純ではない。例えば、世界の即席麺需要の約半分を占める中国市場を見てみると、日本メーカーも進出のために多大な努力をしてきたが、50%以上のシェアを誇っているのは康師傅という台湾の大手食品メーカーである。康師傅は、サンヨー食品をはじめ多くの日本企業とも資本提携しているが、即席麺のマーケティングや商品開発は台湾サイドが一手に担っている。なぜなら、中華圏市場の嗜好やマーケティング方法を日本企業よりも熟知しているからだ。

 最近は、康師傅だけでなく、中国やインドネシアなど日本と同様に麺文化を持つ国のメーカー、あるいはクノールやハインツなどのグローバルブランドも即席麺事業を積極的に展開している。彼らは、これまでのビジネス経験を通じて、各国の市場や文化に深く通じており、日本企業は単なるローカライズ力だけでは優位性を打ち出せないだろう。厳しさを増す即席麺のグローバル競争において、現地メーカーやグローバルブランドには無い、日本企業ならではの強みや特色をどのように打ち出し、差異化を図ったらよいのだろうか。 

 そのひとつの方向性を、エースコック村岡社長の言葉に見ることができる。「技術はグローバルだが味は現地化する。」エースコックは、ベトナムで「ハオハオ」と言う商品を大ヒットさせた。原材料は現地調達、商品の味づくりはベトナム人社員が担う一方、麺の製造技術は全て日本のものを適用して開発した商品である。先に紹介した康師傅でも、台湾サイドが担う商品開発の基盤となる生産管理や品質管理といった技術は日本サイドが担当している。つまり、日本メーカーならではの最先端の技術や品質管理力をグローバルスタンダードとしながら、味やパッケージングは現地市場に合わせてローカライズを徹底する。グローバライズとローカライズを両立させるという意味で「グローカライズ」という造語が使われるが、即席麺の海外展開の成功事例を見ると、このグローカライズが日本メーカーの成功要因になっている。

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