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» 2013年10月03日 08時00分 公開

グローカライズで世界に羽ばたく即席麺海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)

[井上浩二、小林知巳(シンスター),ITmedia]
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 その背景には、「超」成熟市場である日本でのし烈を極める競争、そこで培った技術革新があるのは言うまでもない。消費者の舌が肥えた「超」成熟市場においては、従来の延長線上の商品では淘汰される。そこで、各社は技術革新によって新たな付加価値をつけ、消費者の購買意欲を喚起しようと激しい競争を繰り広げている。

 例えば、東洋水産が一昨年に発売してヒットした「マルちゃん正麺」では、「生麺うまいまま製法」という乾燥麺でありながら生麺の食感を実現する製法を生み出し、特許まで取得している。また、昨年日清食品はサンヨー食品に対して特許権侵害訴訟を起こしたが、訴訟の対象となったのは、「ストレート麺製法」(お湯で麺を戻す際に麺がきれいにほぐれ、食べる時に真っすぐになる麺の製法)であった。このように国内市場における製麺技術競争は激しさを増しているが、逆に見れば、し烈な技術革新競争を通じて高めた製麺技術を海外に展開し、各国市場に合わせたきめ細かいローカライズと融合できれば、日本メーカーは高い競争優位性を確立できる。

選択と集中で陣取り合戦をいかに制するか

 最後に、即席麺メーカーの現在の海外進出状況と今後の展開に関して触れておく。興味深いことに、即席麺の海外市場では「棲み分け」に近い状況が見られる。例えば、ブラジルや香港では日清食品、メキシコでは東洋水産、ベトナムではエースコックがトップシェアを握り、支配的な地位を築いている。日本市場ではトップメーカーである日清食品は、東洋水産に追随してメキシコでビジネスを展開しているが、そのシェアは12%にとどまっている。一方、インドでは海外メーカーが優勢で、ネスレグループのMaggi(マギー)ブランドが4分の3以上のシェアを握って他社の追随を許さない状況となっている。

 このような状況は、即席麺が裾野の広いBOPに日常食、食文化として浸透するという特性が作り上げていると言えよう。先に述べたように、マルちゃんはメキシコで伝統料理衰退の危惧を呼ぶほどにまで浸透している。ネスレグループも、実に30年をかけて都市部だけでなく農村部も開拓し、その食文化を根付かせた。もともと日本をはじめ一部の国でしか食されていなかった即席麺の海外展開では、一商品としてというよりは即席麺というカテゴリーや食文化そのものを普及させる必要がある。これは、当然現地消費者の啓蒙といったコストがかかり、普及するまでに長い期間も要する。しかし、いったん浸透すると、その商品が即席麺カテゴリーの代名詞として認知されるため、競合メーカーにとっては覆すことが至難の業になるのであろう。つまり、ファーストムーバーとしての優位性をいかに築くかが非常に重要となる。

 一方、このような戦略を採るには、現在白地のマーケットはどこか、あるいは他社が先駆けて進出して下地は作っているものの、まだ文化として根付いていない市場がどこかを見極める事が今後の展開では鍵となる。限られた資源をどこに集中して投下するか、その判断が各社に求められるのである。昨年、日清食品が家庭調理を重視して即席麺を好まなかったトルコに敢えて進出する意思決定をしたのは、共働き世帯の増加による簡便な食事への需要増加を見込んでのことである。この選択が吉と出るか否かは、今後の同社の海外展開を左右する一つの試金石となるのではないだろうか。

 今回は即席麺メーカーの海外進出手法、グローカライズとファーストムーバーアドバンテージ、市場選択の重要性を述べてきたが、同様に日本で熾烈な競争を繰り広げ、付加価値を高めると同時にDesign to Costを実践してきた食品メーカー、日用品メーカーなどの皆さまには、参考になるところが多い事例ではないだろうか。市場を選んで文化を創り、浸透させるような手法をどこで展開できるかをぜひ検討してほしい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


著者プロフィール

小林 知巳(こばやし ともみ)

株式会社シンスター パートナー・コンサルタント。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)にて12年間に渡り、組織・業務改革プロジェクトを数多く遂行。同社アソシエイトパートナーを経て、2000年に退社。以降、アウトソーシング事業、教育事業を展開するベンチャー企業の経営メンバーを歴任し、人材育成計画の立案・実践や企業研修の講師を務める。2009年、株式会社小林マネジメン ト研究所設立。同社代表取締役を務めながら、2011年よりシンスターに参画。数多くの企業の教育プログラムの開発を行い、講師としても活躍中。筑波大学大学院ビジネス科学研究科修士課程及び東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。


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