長期的な視点で自社文化をグローバルに展開する――ヤマダ電機海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(1/2 ページ)

売上高2兆円を超え、日本の家電量販店業界では一人勝ちといわれるヤマダ電機。この企業の海外進出は、その企業規模からみると実にのんびりしているように見える。何故このようなスピードで海外展開を図っているのであろうか?

» 2012年03月14日 08時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]

 売上高2兆円を超え、日本の家電量販店業界では一人勝ちといわれるヤマダ電機。この企業の海外進出は、その企業規模からみると実にのんびりしているように見える。2010年末に中国瀋陽に初の海外店をオープンし、中国に3年で5店舗、売上高1,000億円を目標としている。SCやCVSを展開している他の小売業と比較すると、この目標はかなり控えめに映る。今後の成長戦略の重点施策の一つとして掲げながら、ヤマダ電機は何故このようなスピードで海外展開を図っているのであろうか?

 中国の家電量販店のビジネス形態は、日本とは異なる。店内にメーカーが独立したコーナーを設け、メーカーが派遣する販売員が自社の商品だけを販売するのである。テレビやパソコンなど、カテゴリーごとに複数のメーカーの商品が陳列され、販売員に各社製品の機能や価格の違いを聞いて比較しながら購入商品を決めるのが当たり前になっている日本の「買い場」とは全く異なるのである。欲しい商品を比較するには、各メーカーのコーナーを回らなければならない中国の「売り場」は消費者にとって利便性が高いとはとてもいえないであろう。

 このような環境下で、ラオックスを傘下に収めた中国家電量販店最大手の蘇寧電気集団は、日本流の販売方式を持ち込んで差異化を図ろうとしている。昨年末に南京に日本流の買い場を作り、蘇寧があまり扱っていないパソコン周辺機器などの品揃えを強化したラオックス1号店をオープンし、3年で30店、5年で150店展開する計画である。

 日本の30〜40年前と同じ状況にあるといわれる中国の家電マーケットは、成熟した日本マーケットで厳しい戦いを強いられている多くの日本企業にとって大きな成長機会といえる。ヤマダ電機の山田会長も、「今が(出店の)チャンスだ」と明言している。(BCNランキング 2011年8月5日)このような状況下では、スピーディーに多店舗展開を行い、マーケットを面で押さえるというのがこれまでの小売業界の定石であった。

 しかし、ヤマダ電機はそのような戦略をとっていない。2007年から海外進出を検討し始め、2010年12月に瀋陽店を、11年6月に天津店をオープンし、今春には南京店をオープンさせる予定である。既にオープンした2店舗は、計画を上回るパフォーマンスを出しているということである。進出当初は試行錯誤を覚悟して慎重な計画を立てても、結果が出れば計画を上方修正しても良さそうなものである。しかし、3年で5店舗、1,000億円という目標は変えていない。ヤマダ電機は、なぜこのような戦略をとるのであろうか?

 これは、ヤマダ電機が目先の結果ではなく5年、10年という長期スパンで自社のグローバル化を考えているからだと思われる。そもそもサービスでの差異化を図るには、そのコアである人的資源をどのように考えるかで戦略が変わってくる。ヤマダ電機は、ヤマダ流のサービスを展開するために時間がかかっても日本でコア人材を育てようとしている。また、新興国マーケットでは現地の政府機関との関係をいかに構築するかがビジネス展開上重要な要素となる。

 ヤマダ電機は、新興国にない日本の経営システムを持ち込むことで現地に迎え入れられる手法で海外展開を行う方針のようである。自社が持つ経営システムが現地にいかに有益かを理解してもらうには、やはり最初は時間がかかる。この軸をぶらさずにグローバル化を図るために、ヤマダ電機は長期的な視点で戦略を立てていると思われる。以下、同社の具体的な取り組みを紹介する。

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