大きいに越したことはないが常識だった会社組織だが、さまざまな環境変化を背景として小さいことが強みになる新しい組織形態が可能になってきている。画一的に低コストの製品を大量に生産するための「20世紀型組織」を見直してみてほしい。
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ICTのようなテクノロジーはわれわれの仕事や生活の価値観をも変えることがあります。組織のあり方についてもそうです。これまでは「大きいに越したことはない」が常識だった会社組織ですが、さまざまな環境変化を背景として、小さいことが強みになる場合も出てくることが考えられます。
このような時代に合致したものとして、『起業はGo it alone』から、「Go it alone起業」について紹介します。「Go it alone起業」というのは文字通り「一人で」あるいは「ごく少人数で」始めるビジネスのことで、究極に組織をスリム化した形態と言えます。個人やごく少数の組織で自分たちの強みに特化し、その他の機能は極限までアウトソーシングするというのがその形態です。小さいからやることも小さい「単なる個人商店」のままというのではなく、外部の専門家の力をうまく使って規模も拡大していくというビジネスのやり方です。
インターネットや製品のサービス化、ソフト化の流れに合った新しい組織のあり方のひとつとして、画一的に低コストの製品を大量に生産するための「20世紀型組織」に変わって今後増えていくことになるでしょう。
「小さく始める」というのは起業においてもこれまで以上に普及してくる可能性が出てきています。これを可能にするのがICTの発展です。代表的なのが情報システムのクラウド化です。クラウド化によってICTは「所有するから使用する」という考え方に変化して、これまではサーバーやネットワークなどに必要だった多額の初期投資が、ほぼゼロに近くても起業ができる環境になりつつあります。あるいは経理のシステムでもクラウド上のツールやサービスを用いれば初期投資がかからないだけでなくランニングコストも安く、さらに最新の技術やサービスがいちいちアップグレードにお金をかけることなく実現できます。
こうした時代に合致する新しい組織のあり方が"Go it alone"型の組織です。『起業はGo it alone』の原著者ブルース・ジャドソンによれば、Go it alone起業とは以下の3つの特徴を有するもののことです。
1番目の前半、「最小限の投資で始める」というのは先述の通りICTによって実現が容易になりました。公開企業のように所有と経営が分離されているのではなく、一体であるというのが後半の特徴です。
そして2番目の特徴が、規模が1人(alone)に近い程度のごく小規模であることです。これが文字通りGo it alone起業の最大の特徴と言ってよいでしょう。
組織というのは規模が大きくなると必ず「大企業病」と呼ばれる弊害が出てきます。組織や従業員が内向きになる、会社全体より自部門の利益を優先させる、報告だけの無駄な会議が増えてくるといったことです。これによって、大きな組織というのは確実に会社としての活力を削がれていきます。このような大企業病は決して避けて通ることができない、組織の宿命です。それでもなおかつほとんどの組織が「成長」を常に目指しているのは、それを補って余りあるだけの「規模の経済」が享受できるからです。
具体的には大規模な設備投資ができるとか、大量に発注することでサプライヤに対しての交渉力が上がるとか、知名度が上がることで顧客の信頼が上がり、優秀な人材を確保できるといったことです。
ところが産業構造の変化などによって、付加価値がモノからコトへ、つまり物理的な「ハコモノ」から知的創造性にシフトしてきています。こういう世界では「大きい組織」の弊害がこれまで以上に強調されてくるとともに、規模の経済のメリットも薄れてきます。
さらに製品を売るにしても、顧客視点での統合を含んだ「ソリューション提供」や単に「モノを売る」のだけではなく、製品提供を通じて顧客の問題解決を図るといったコンサルティング営業のような「人的要素」の拡大を意味します。あるいはさまざまな製品やサービスに占めるソフトウェアの比率は高まる一方ですが、こうした世界では「ものづくり」程には大規模な設備投資は必要ありません。
Go it alone起業というのはこうした時代にマッチした組織のあり方と言えます。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授