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» 2013年11月18日 08時00分 公開

日系電機メーカーの中国との付き合い方視点(3/3 ページ)

[大橋 譲(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger
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事例2:中国パワーを使って一度は負けた技術を復活させたシーメンス

 ドイツを代表する企業であるシーメンスが過去に力を入れていた技術で一般的に大失敗したと言われる技術がある。携帯電話における無線通信方式の3G規格の争いで、W-CDMA(当時のエリクソンが主導)とCDMA2000(クアルコムが主導)に破れたTD-CDMA(シーメンスが主導)である。通信方式は規格モノなので敗れると普通は市場から消える。次世代のDVD規格としてBlu-Rayと争って負けたHD DVDが良い例だ。負けたHD-DVDは一瞬にして市場から消えた。シーメンスはTD-CDMAの開発に相当な時間と資金をつぎ込んでいたため、この規格争いの敗北はシーメンスにとって大きな痛手であった。

 しかし、TD-CDMAは市場から消えなかった。TD-CDMAをベースとした携帯電話は存在するが、世の中の多くの国で使えない。日本や米国をはじめ欧州のほとんどの国で採用されていない。TD-CDMAが生き残ったのは中国市場である。中国政府は、先進国の携帯電話網が3Gに移行するなか、独自3G規格の構築による自国産業の保護と育成を模索していた。しかし、中国国内に3Gを開発し、事業化できる企業はいない上、技術が不足していた。

 シーメンスは、TD-CDMAを中国の独自技術として改良し世の中に残した。技術名はTD-SCDMAと改名されたが、中国の最大手キャリアである中国移動(China Mobile)が採用し、今でも1.2億人を超える契約者が使っている。この契約者数は、日本の全契約者数を越える規模であり、中国の半端ないスケールで展開すると、規格として成り立ってしまうことが証明された。TD-SCDMAは現在ではW-CDMAとCDMA2000に次ぐ第三の無線通信方式として正式に承認されている。

 シーメンスはTD-SCDMAの実現のために、DatangやHuaweiなどの通信機器メーカーに多くの技術を供与したと言われている。ほぼ無償での技術提供だったといわれているが、なくなる運命にあった技術であったことを考えると、得られたものは大きい。TD-SCDMAに関連した特許数でシーメンスはトップであり、携帯電話や基地局設備などが売れるごとにライセンス料が入る。シーメンスが3Gの世界標準を夢見ていたころからすれば、事業規模は小さくなったものの、負けた技術がここまで普及したのは中国政府の思惑を理解し、うまく協業した結果である。中国政府や中国企業を味方につけたことで、シーメンスの他事業での活動範囲も広がったといわれている。

 TD-SCDMAはまだまだ生き続ける。中国移動は、TD-SCDMAを軸にした3.9GであるTD-LTEを開発中である上、TD-SCDMAを使ってグローバル展開を始めている。アフリカなど発展途上国の携帯通信網の構築に次々と提案しており、導入試験も始まっている。どちらの事例も、中国政府や中国企業に「勝ち」を提供することによって自社も利益を獲得した例である。また、中国市場が持つスケールを活かすことで、グローバル標準や規格を揺るがし、自分のものにすることも可能であることを証明している。中国とうまく共存共栄する方法を選択したことで成功した事例である。

5.日系電機メーカーが中国と共存共栄するという選択肢が持つ意味

 日系電機メーカーが持つ多くの製品・技術は、ガラパゴス市場で育った、日本では強いがグローバルでは弱く、差別化が難しくマネできてしまうものが多い。このような製品・技術で中国市場に真っ向から勝負しても、浸透しない可能性が高い。仮に、浸透したとしてもマネされて価格で中国勢に一気にひっくり返されるだけである。

 しかも、状況はさらに深刻だ。マネされるといっても現在の電機製品の多くは中国で生産されているものであり、必ずしもマネであると指摘できなくなってきている。それどころか世界の工場としての経験を活かし、中国発のモノづくりさえ始まっている。日系電機メーカーに残された時間は少ない。

 中国市場の攻略のために、ダイキンやシーメンスが選択した中国政府や中国企業と共存共栄する道は一つの有力な戦略である。この戦略は中国政府や中国企業の面子を保つため、日系企業が中国市場を独占するような圧勝は期待できない。しかし、「勝ち組」としてのポジショニングを確立できる上、将来大きな脅威となる可能性がある中国政府や中国企業を味方につけることができる。また、世界で戦える製品・技術を獲得できることはガラパゴスからの脱却およびグローバル展開に向けた土台作りとして機能する。

6.日系電機メーカーのグローバルでの復活に向けて

 2000年前後までの約20年間、日系企業は電機業界において世界をリードしてきた。ソニーのウォークマン、東芝のノートブックパソコン、任天堂やソニーのテレビ・携帯ゲーム機など数々の分野においてヒットを飛ばしてきただけでなく、数々の製品カテゴリーを創出してきた。しかし、2000年ごろから日系勢の失速が顕著になり、代わって韓国勢が様々な分野で日系に追いつき、追い抜いた。現在、テレビやスマフォの分野でSamsungをはじめとする韓国勢がグローバルリーダーの一角を握っていることは述べるまでもない。

 韓国勢のばく進が日系勢と同様に20年間は続くとすると、2020年以降グローバルをリードしていくのは誰・どの国になるのだろうか。韓国政府の強力な支援のもと、韓国勢がリードし続ける可能性も十分にあるが、中国の事業規模と中国政府の強力な支援を梃子に中国勢が大きな脅威になることは間違いない。グローバルリーダーになる可能性も十分にある。

 日系電機メーカーが中国市場を攻略するだけでなく、グローバルでの復活を目指すためには、2020年以降を見据えた競争環境から逆算して戦い方を考える必要がある。中国勢が大きな脅威になる可能性が高い中、中国政府や中国企業との付き合い方は非常に重要だ。彼らの力を借りながら共存共栄する道を選ぶという戦い方は十分に想定できるグローバル戦略と考えられる。

著者プロフィール

大橋 譲(Yuzuru Ohashi)

ローランド・ベルガー プリンシパル

カリフォルニア大学サンディエゴ校の情報工学部を卒業後、日本ヒューレットパッカード及びセピエントで企業のITシステム構築を多数経験した後、ローランド・ベルガーに参画。米国系戦略コンサルティングファームを経て、復職。消費財、自動車、石油、ハイテク企業など幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略(特に東南アジア諸国)、業務プロセス改革、コスト削減、IT戦略等のプロジェクト経験を有する。


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