業績向上の秘訣とは――ナレッジファシリテーションで暗黙知を見える化するITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

暗黙知を見える化することで、企業の業績を向上できる。暗黙知を見える化する手法「ナレッジファシリテーション」とは?

» 2015年01月26日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 「ITmediaエグゼクティブ勉強会」に、ビジネスコーチ 代表取締役である細川馨氏が登場。「暗黙知を見える化し、業績向上する秘訣」というテーマに基づき、暗黙知を見える化する手法であるナレッジファシリテーションの実施方法とその効果について、ワークショップを交えながら紹介した。

暗黙知を見える化する技法とは

ビジネスコーチ 代表取締役 細川馨氏

 「暗黙知」とは、社員一人ひとりが持っている属人的な知識である。暗黙知という見えない資産を見える化することで、企業の業績を向上できる。それでは、暗黙知を見える化するにはどうすればよいのか。頭の中にある暗黙知を見える化する手法が、資産工学研究所(IIRE)代表取締役の坂本善博氏が開発した「ナレッジファシリテーション」である。

 ナレッジファシリテーションは、個人の頭の中にある暗黙知を、付箋紙に書き出し、本質で整理することにより見える化する技法。ナレッジファシリテーターが、ナレッジ保有者からナレッジを引き出し、問題意識を共有し、参加者のコミットメントを確認しながら、当事者の意識を高めて、アウトプットを導き出す。

 重要なのは、テーマに関するナレッジを持っている人を集めること。ある製薬会社では、MR(医薬情報担当者)の底上げの取り組みに8カ月かかっていたので期間短縮に取り組んだ。しかしなかなか成果を上げることができなかった。細川氏は、「腕の悪いMRを集めると、標準的なマニュアルしか作成できず、成果が期待できない。問題を短時間で解決するには、腕のいい人のナレッジを集めることだ」と話す。

 ナレッジファシリテーションの技術を覚えると、リーダーシップが養えるが、たくさんの人の知恵を一度に集めるのは意外にたいへんな作業である。一般的なミーティングでは、何時間かけても何も残らないのではないだろうか。ナレッジファシリテーションでは、1時間程度で問題を出し切り、優先順位を付けて、全員で解決する。

 「暗黙知を見える化しておかなければ、知恵を持っている人たちが退職してしまうと何も残らないことになる。退職するだけならまだしも、海外の会社に引き抜かれ、ノウハウが海外に流出してしまう。退職する人の暗黙知を形式知にしておかなければ、会社にとって大きな損失となる」(細川氏)

会社の暗黙知を共有できない理由

 会社のベストプラクティスを全社で共有することができれば、圧倒的な成果を上げることができる。しかし一般的には、自分の暗黙知を他人に教えたくないという気持ちが強い。「会社の暗黙知を共有できない課題を解消すれば、必ず成果は出る」と細川氏は言う。課題とは、次の4つである。

(1)成功法則のPDCAサイクルが実行されていない

(2)拠点同士で点検をしていない

(3)成功事例および失敗事例を共有していない

(4)本社と現場の間に不信感がある

 ある保険会社では、この4つ課題を解消したことで、9月の売上が対前年比120%増加、10月の売上が対前年比170%増加、11月の売上が対前年比180%増加したという。細川氏は、「会社の中の暗黙知を集めてデータベース化し、多くの人で共有することが必要。特に、お客さまの暗黙知を集めたことが、この保険会社の成功の要因だ」と話す。

 経営学者である野中郁次郎氏は、「会社とは、世のため人のためにある」と語っている。世のため人のためを、どのように測定すればよいのか。細川氏は、「お客さまの満足や喜びで測定する。“お客さまのために”というのは、上から目線。お客さまの立場になって、はじめて自社商品が世の中の役に立っているかどうかが理解できる」と話す。

 この教えを忠実に守っている製薬会社では、社員がアルツハイマー患者と3日間一緒に生活することで、その経験を薬作りに生かしている。たとえば、ある薬を患者がはき出してしまうので、その薬をなめてみると非常に苦かった。そこで患者が飲みやすい苦くない薬を開発し、業績を向上している。

 また自動車会社であれば、自社のクルマに乗ってみることだ。細川氏は、「自分自身がエンドユーザーになってみること、ここにイノベーションのカギがある。お客さまの暗黙知を徹底的に形式知にすることが最大のポイントだ」と話す。そのほか、優秀な社員10人の経験をまとめると、次のとおりとなる。

 笑顔で明るく挨拶する、身なりを整える、マナーを守る、時間や役職を厳守する、相手を理解し好きになる、相手の話しをよく聞く、結論から分かりやすく話す、相手の立場で行動する、自信を持って行動する、謙虚になる、共通の話題を持つ、本音で意思疎通する、ニーズの深読みをする、商品の情報を分かりやすく説明する、一般的な解決策を豊富に持つ、相手の視点で勧める、他社での実績をさりげなく示す、人脈を適宜に示す、頼りがいのある存在になる、最後まであきらめない。

 細川氏は、「優秀な社員の経験をまとめても、それをすぐに実行できるわけではない。知ることと分かることは、できることではない。知る、分かる、行う、できる、分かち合うという5段階の取り組みが必要。ファシリテーションを理解してもらい、実際に行って、1人でできるようになってもらうことが重要になる」と話している。

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