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» 2015年06月24日 08時00分 公開

変わらない真心と、時代に合わせて変わり続けてきたお菓子――たねやのブランド力の秘密とは?経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)

[聞き手:井上敬一、文:牧田真富果,ITmedia]
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伝統は続けること。続けるためには、変わること

井上 山本さんのお話を聞いていると、人とのつながりを何よりも大切にする昔ながらの日本の良き文化を感じます。

山本社長(右)と聞き手の井上氏(左)

山本 商いは人の道なのです。大切なのは、お菓子に真心をこめて、手塩にかけて、いかに今日お客さまに喜んでいただくかということです。そのためには、伝統を守るということだけに集中していてはいけません。たねやとしての伝統を大切に守りながらも、常にお客さま視点に立ち、時代にあったお菓子を提供できてはじめて長年に渡り存続できるのです。

 私はよく伝統は続けることだといっています。続けるためには、時代の空気を読む必要があります。明治時代に作っていた栗饅頭をそのままの味で今売り出しても、甘すぎて売り物になりません。今の時代のお菓子は、砂糖がかなり控えめです。人の舌も時代とともに変わっていくのです。時代の空気を読み、それに応じて少しずつ変え続けてきたからこそ、お年寄りから子どもまで、変わらずいつもおいしいと言われるお菓子屋であり続けることができているのです。

井上 変わることを恐れず、常に時代に合わせて変わり続けてきたからこそ、たくさんのお客さまから支持を集める今のたねやがあるのですね。洋菓子を始めたのも、時代を見据えた大きな変革だったのでしょうか。

山本 作り手はいつもお客さまがどのような場面でお菓子を食べるのかを想像しなければなりません。そうすることで、お客さまに本当に喜ばれるお菓子を作ることができるのです。昔は、お菓子といえば畳の上で着物を着て、抹茶と一緒に食べるものでした。しかし、今は違います。畳がある家は減り、椅子に座って洋服を着て食べることの方が多いでしょう。抹茶よりも、紅茶や水、ワインなどに合うお菓子が求められています。

 昔は2月といえば、暇な時期でしたが、今はバレンタインデーのため、1年で一番忙しい時期になりました。最近のバレンタインデーの傾向は、「自分へのご褒美スイーツ」です。男性にお菓子を用意するよりも、自分へのプレゼントを楽しみにしている女性が本当にたくさんいます。バレンタインデーは年に1度のことなので、多少お金をかけてでも、特別なスイーツを食べたいという女性が多いのです。こういった時代の空気をつかみ、それに合わせた商品を作ることをいつも意識しています。

時代の流れを読み取り、新しい価値を作り続ける

井上 2011年に社長に就任してから、苦労したこと、新たにチャレンジしていることはありますか。

山本 41歳の時に社長になってから、1年かけて自分の舌に合うお菓子を作ろうと試行錯誤しました。時間をかけて開発した商品でも売れなかったり、どうしても納得がいかない点があることもあります。そういうときは、すぐに販売をやめることにしています。できるだけくよくよ悩む時間をなくしたいので、判断は早く下すようにして、在庫が多少余っていたとしても、すぐに販売を中止します。自分自身の恥、たねやの恥になってしまうことは避けなければなりません。

 私が社長になってからは、お菓子屋として全く新しいチャレンジ、医療の分野で食べてもらえるお菓子の開発にも取り組んでいます。病気の人も美味しく食べられるお菓子です。医療だけではなく、高齢者向けのお菓子、女性がターゲットだったら、肌がきれいになるお菓子、お酒を飲む前に食べるお菓子など、お菓子屋という立場でできることはまだまだたくさんあります。常に時代の流れを読み取り、それまでにない新しい価値を作っていきたいといつも考えています。

井上 目先の利益には目もくれず、たねやとしてお客さまに何を提供するのかという本質を見失っていないからこそ、時代の空気に合わせて変わっていくことができるのですね。

山本 過去から現在、未来まで長い年月を見据えて、あの経営者がいたから、今のたねやがあるといってもらえるような経営者でありたいと思っています。お菓子屋の基本は、お菓子を食べてもらい、おいしいと言ってもらったり、夢をふくらませてもらうことです。そのことをいつも忘れずに、変化を恐れなければ、これから先もたねやはお客さまに選ばれ続け、継続していくでしょう。

 私は現在、たまたま先代から受け継いだたねやをお預かりしているだけ。社長として、20年、30年たねやを預かり、また次の世代へつなげていくことが役割です。自分の利益、目先の利益に走ることなく、たねやを一時的に預かっているという思いによる経営が続く限り、お客さまとの絆はなくならず、これから先もたねやは続いていくと思います。

対談を終えて

 「140年の歴史の一端を担っているだけ」と語る山本社長の言葉からは、パフォーマンスの要素は一切なく紛れも無い信念を感じた。それを証拠に経営は常に長期的な視野で見ており、今が良ければいいという発想が微塵も感じられない。徹底した顧客目線。それはただシンプルに「おいしい」と言ってもらうこと。変わらないおいしさのために変わり続けるというたねやグループの在り方は、時代に応じて戦略は変えても理念は変えないという言葉に私の中で置き換えられた。お菓子・スイーツという甘い響きとは真反対の気迫と闘争心を山本社長からは感じ、これからのお菓子の未来を必ずや変革してくれるであろう可能性に心踊る時間でした。

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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