具体的には、カラー機の新機種投入によりジャンルトップのポジションは維持しつつも、OPS(Optimized Print Services:コニカミノルタのManaged Print Serviceの名称)対応力を強化して業種業態別のサービス展開を行うと同時に、GMA(Global Major Account)の売上を拡大するということを中計の軸に据えている。つまり、これまでのハードと消耗品・保守ビジネスが屋台骨として機能しているうちに、ITを含めたソリューションを展開できる企業力を高め、次期中計ではこれを元に成長できる企業へとTransformするという内容である。
松崎氏は、社長になった際に最も重要な課題を「持続的成長」と定め、「足腰の強い会社、強い成長を続けられる会社」とすることを意思決定の原点のひとつとしたそうだが、その具体的な「あるべき姿」を中計で明確に示し、全社で共有して取り組んだのである。
次の2014〜16年中計では、前中計の結果も踏まえてタイトルも「Transform2016」とし、更に事業変革を前に進めることを明示した。この中計では、全社の基本方針として「顧客密着型企業への変革」を掲げ、お客様を全ての業務プロセスの起点・判断の軸とし、顧客価値を追求する企業への変革を「あるべき姿」として定義している。
主力の情報機器事業においては、より具体的に「MFP事業転換Phase2(Print Volumeに頼らない事業への転換)がReady状態になっている」ことを目標に掲げたと松崎氏は語っている。つまり、それまではOPSでお客様の業務プロセスでの出力最適化、コスト削減に寄与するソリューションを作ってきたわけだが、更にそれを上流工程、つまりマーケティングなどのフロント業務でのMCS(Managed Content Services)にまで広げることにより、コアであるMFPを軸としつつも顧客価値を高めるサービスを提供できる企業体にTransformすることを目標としたのである。
この2つの中計は、Transformationを志向している企業にとって実に重要な示唆に富んでいると筆者は考える。まず、経営陣が自社を取り巻く経営環境の変化を長期的な視点で捉え、なぜTransformしなければいけないかを明確にし、それを社員に明示している点である。これまでに営んできた事業の構造変革には、当然のことながら痛みも伴い、多くの労を要する。社員が、その必要性を納得していなければその実行は難しい。これを、道標である中計で明示し、社員が納得いくまで説明することが不可欠である。これを経営陣は実践したのである。
次に、経営陣が企業の変革には相応の期間を要することを十分に理解しており、変革のフェーズを中計で定義し、フェーズごとにTransformした姿を明示していることも重要なポイントである。容易ではないTransformationに対して社員が具体的なイメージを持つことができるように、各中計でその具体的内容を経営陣が説明しているのである。企業の今後の進み方を示す道標である中計でこのようなことを実践するのは、企業がTransformするためには不可欠であり、コニカミノルタの取り組みは多くの企業にとって非常に参考になるのではないだろうか。
今回は、中計を元にTransformationの実践に向けて重要なポイントを考察したが、次回は主力事業である情報機器事業の具体的な事業戦略を元に同様の考察をしてみたいと思う。なお、本コラムを執筆するにあたっては、コニカミノルタの松崎取締役会議長、山名社長をはじめ、各事業の執行役員の方々にインタビューを行わせていただいた。この場を借りて、厚くお礼申し上げたい。
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授