第1回:「あるべき姿」にTransformするための道標としての中期経営計画激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(1/2 ページ)

環境変化に対応し続ける企業体に変革する、Transformation。多くの企業が現在行っている取組みだが、これを成し遂げるためのポイントはどこにあるのだろうか。日本企業の中でもいち早くTransformationに着手してきたコニカミノルタを事例に、6回に渡ってこれを考えてみたい。第1回は、2011年、14年に同社が策定した2回の中期経営計画が果たした役割について考察する。

» 2016年04月19日 08時00分 公開

 コニカミノルタ取締役会議長の松崎氏(※「崎」は正式には旧字の立つ崎)は、2010年に発売されたiPadが同社にもたらす影響を考えた時のことを振り返り、「初の民生用デジカメが発売されてから写真フィルムの需要がピークを迎えるまで5年、その後デジカメの影響でこれが半減するまで5年かかった。iPhoneが発売されてからデジカメ市場がピークを迎えるまで4年、今後スマホの影響でこの市場も短期間で半減するだろう(実際には4年)。そして、今回の(iPadがもたらす)構造変化は、このような例より早く起きるかもしれないという危機感を持った」と語っている。

 同社の主力事業であるMFP(デジタル複合機)を主体とする情報機器事業の業界構造を一変してしまうかもしれない変化、具体的には長期的にPrint Volumeが激減するかもしれないという変化を受け、当時コニカミノルタ社長であった松崎氏は、Transformしなければ生き残れないという危機感を持ったのである。現在も継続するTransformationにいち早く着手したのは、このような環境変化に対する経営陣の危機意識が背景にあった。

 業界構造を大きく変えるような環境変化が、近年さまざまな業界で起こっている。TPPなどの新たな枠組みの設定によるグローバル競争の更なる激化、GoogleをはじめとしたIT企業の自動車業界への進出や小売業の金融ビジネスの拡大などに見られる異業種からの参入の脅威の増大、IoTを活用した製造業のサービス業化とデータベースプラットフォーマーを狙った覇権争いや規制緩和による電力の自由化が生み出す総合インフラプレーヤーを目指す主導権争いの始まりなど例を挙げれば枚挙に暇がない。

 このような業界構造の変化は、これまでの競争ルールを変え、大企業といえども安穏としていては生き残れない状況を作り出している。そこに危機感を持つ経営者が増えた結果、従来のビジネスモデルから脱却し、変化する経営環境に対応すると同時に継続的な成長を実現できる新たな姿に企業を変革しようとして、中長期経営計画などにTransformationというキーワードを盛り込む企業が増えているのではないかと推察される。

 しかし、これまで営々と作り上げてきたビジネスをTransformするというのは容易なことではなく、一朝一夕では実現できない。そもそも、どのような姿にTransformするのかを明確にし、その姿を実現するための戦略を策定しなければならない。そして、その実行においては、社員の意識変革も求められると同時に、新たなビジネスモデルで競争に勝ち、成長し続けるための武器も新たに作らなければならない。

 コニカミノルタの2015年3月期の業績は、売上高が前年比プラス7%の1兆28億円、営業利益が前年比プラス14%の658億円(IFRS)であり、2016年3月期も増収増益を見込んでいる。近年の底である2012年3月期の売上高7679億円、営業利益403億円と比較すると、見事なV字回復を達成していると言える。しかし、ここで重要なことは、コニカミノルタは2011年に策定した中計からTransformationに取り組み、ビジネスの質を変えながらこの結果を生み出していることだ。本コラムでは、現在多くの企業が取り組んでいるTransformationを実践するために必要な考え方や取り組みを、コニカミノルタのこれまでの取り組みを参考にして、6回に渡って考えていく。今回は、Transformationを実践するにあたって策定した中期経営計画を考察し、取り組みの方向性を決める上で参考になるポイントを考えてみたい。

 コニカミノルタのこれまでのTransformationは、2011〜13年および2014〜16年の2つの中期経営計画に基づいて実行されてきている。この中計に関して考察するために、まず同社が2010年当時どのような状況に置かれていたかに関して簡単に触れておく。

 現在の売上高の約8割はMFPを主力とする情報機器事業が占めているのだが、当時も7割を占めており、主力事業自体は変わっていない。2000年代中盤は、ジャンルトップ戦略を推進し、開発したカラーの重合トナーを武器に、日米欧マーケットを中心にMFPのカラー機を投入して成長を遂げた。しかし、リーマンショック後のビジネス環境は非常に厳しく、2010年になってもなかなかMFPのビジネスは戻ってこなかった。それは、カラーMFPがある程度マーケットに行き渡った段階でリーマンショックが起こったため、同社の顧客である企業群がビジネスのコアではない印刷に対して非常に厳しくコスト削減を進めたためである。

 そのような環境下で、2010年にAppleがiPadを発売した。MFP業界では、それまではPCまたはスマートフォンが代替品であり、これらはモビリティあるいは大きさの観点から業界に及ぼす力は限定されていた。しかし、タブレットは十分な大きさがあり、重量もPCに比べてずっと軽くなった。さまざまなコンテンツが既にデジタル化されてきていた状況で業界を俯瞰してこの変化がもたらす意味を考えてみると、長期的には企業活動におけるPrint Volumeが激減するかもしれないという危機感を同社経営陣は持ったのである。

 このような危機感を共有し、自らが変わらなければならないということを宣言したのが2011〜13年の中期経営計画「GPlan2013」であった。この中計には、Transformationという言葉自体は明示されていないが、社内では「中計終了時にMFPの事業転換がReady状態になっている」ことを目標とすると、当時社長であった松崎氏は明言している。

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