「言った、言わない」など意思疎通の不足から、時には信用を損ね人の心情に傷をつけ、仕事を破壊してしまうことがある。
「最近、社長と話ができていない……」
「ここのところ、ボードメンバーで集まる時間がつくれない…」
「何度も何度も同じ問題について議論しているが何も進まない…」
「話し合って決めたのに、決めたことが実行されない…」
「会議で決定したことが、後になって内容がすり替わり、何も進んでいない…」
「あの件は専務に伝えたはずなのにいったいどうなっているんだ…」
このようなことは、多くの会社で起こっている。会社によっては、毎月、毎週、場合によっては毎日のように起こっている。これは、意思疎通の不足から起こっているものだ。
技術の発達によってさまざまな通信手段が世に登場し、情報の共有は格段に便利になった。そうかといって、意思の疎通が便利になったわけではない。「情報の共有=意思の疎通」と勘違いしてしまうと、思いもよらぬ大惨事を招いてしまう。
「そう思っていた。そうは思っていなかった」という混乱や、「言った、言わない」という揉めごとは、その典型的な例だ。意思疎通の不足から、時には信用を損ね、人の心情に傷をつけ、仕事を破壊してしまう。恐ろしいことに、それが、事業の低迷に直結する。では、どうすればいいのだろうか。ドラッカーはこう言っている。
「トップマネジメントの仕事は、トップマネジメントチーム内の意思の疎通に精力的に取り組むことを要求する。トップマネジメントにはあまりに多くの仕事があるからである。さらには、各メンバーが、それぞれの担当する分野で最大限の自立性をもって行動しなければならないからである。そのような自立性は、自らの考えと行動をトップマネジメントチーム内に周知させているときにのみ許される。」ピーター・ドラッカー
社長のほか、副社長、専務、常務という役員がいるにも関わらず、会社の将来を見据えて、来たるべき危機に備えの手を考えているのは、結局社長一人になってしまうことが多い。そうした経営の重荷を社長一人に持たせるのではなく、お互いに協力し合いながら、経営を進めていくために、経営チームが存在する。
一方で、トップも、「役員にあがってきた人間だから言わずとも分かるだろう」という期待で、伝えるべきことを伝えていないことも多い。確実に言えることは、経営チームが意思の疎通が取れて一つのチームとなっている会社は、必ず繁栄している。逆に、経営チームが意思の疎通が取れず、チームとなっていない会社は、必ず低迷している。これはコンサルタントとして、多くの会社の現場を見ていて例外がない。
リーマンショックのような外的要因によって受けるダメージは努力だけで防げるものではない。しかし、意思疎通の不足によるダメージは避けられる。そして、避けなければならないのだ。事業の成長と会社の将来に責任を担っている以上、意思疎通の不足による失敗は避けなければならない。
経営チームは、メンバー全員が共通の意識を持つに至るまで、そのチームの力は発揮されない。事業を成長させていくためには、誠実な会話が必要であり、共通の言葉が必要だ。チームは個の連立から成り立つものであるがゆえに、経営チームのメンバーは、自ら進んで自分の考えを他の人に周知させ、人の考えを理解しておかなければならないのだ。
例えば、リクルート社は、年商30億円規模の頃、「じっくり取締役会議」と称する合宿を月1回行い、常に徹底した話し合いの場を持っていた。リクルートを創業した江副浩正氏は「かなり譲ってきた」と言い、他の取締役のメンバーは「ほとんど押し切られた」と言っていた。そして、後に、「初めの頃は、衝突ばかりだったが、後半はお互い何を考えているか分かり合えるようになった」と言っていた。そこに徹底した話し合いがあり、十分な意思の疎通ができたことを物語っている。
江副氏は「共に湯につかり、夕食後には将来のリクルート像を語った。夜食にはおにぎりを用意してもらい、夜を徹して議論し合った。その合宿で相互理解と信頼感を深め、経営戦略を共有した。議題はあらかじめ用意していたが、派生したテーマでも意見を戦わせた」と語っていたそうだ。このように、成長する企業、そして、成長した企業は、経営チーム内でとことん議論を戦わせ、意思の疎通に精力的に取り組んでいる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授