「当社も、私自身も発展途上にある」、松崎取締役会議長と話している際に何度となく筆者はこの言葉を聞いた。Transformし続けようとする企業の経営者として、非常に謙虚な姿勢を持ち続けていることの表れと感じる。このような自己認識こそが、進化し続ける企業の経営者として不可欠なのであろうが、これを企業活動に反映させて継続することは容易ではない。本連載の最終回として、今回はコニカミノルタがGoing Concernとして進化し続けるためにどのような取り組みを行っているのかを考察してみたい。
企業の変革期においては、その実行のために強力なリーダーシップが必要であり、これは属人的になりやすい。属人的な能力を生かすこと自体は否定されることではなく、非常に重要なことだが、「継続性」を実現するためにはその属人的な能力を組織で実現できるようにするための「仕組化」が必要となる。「まだまだ属人的な部分が残っている」と松崎氏(※「崎」は正式には旧字の立つ崎)も語るが、コニカミノルタではこれを仕組化するためのさまざまな取り組みを行っていると筆者の目には映る。
継続的な進化という観点からは、柱となる取り組みは以下の3つに集約されるように思われる。第1は、社会的な課題を解決する新たなサービスを生み出し続けるための、コニカミノルタならではの方法論である。第2は、その創出に当たり、自前主義に陥らずに外の知恵を取り込み続けながらオープンイノベーションを行うためのポリシーと仕掛けだ。そして、最後にこれらの仕組みを経営陣がうまく回し、社会に対して価値を生み出す経営を行っているかをチェック・監視する仕組みである。以下、各々の仕組み構築に関して、コニカミノルタの取り組みを考察する。
「当社はフィルム、光学、印刷、医療などの事業でさまざまな製品を作ってきたが、過去10年を振り返ると、カメラやフィルムといった創業事業を含めて多くの事業から撤退している。それでも今も1兆円以上の売上がある。つまり、失った分を補い、更に会社を成長させる新規事業を生み出し続けなければならない。特に近年は、従来のように安定を求めて"長年に渡り持続的競争優位獲得を狙う時代"は終焉を告げ、イノベーションを連続的に創出し続けて初めて競争優位を維持する"連続的競争優位創出を狙う時代"に突入している」常務執行役の腰塚氏は、自社のビジネスライフサイクルを振り返ってこのように語っている。そして、新たな事業を生み出し続けるための方法論として浸透を図っているのが、「KM Way」である。
新規事業を考える際には、時代の要請を読み、何を強みにどこで戦い、不足する機能をどう補完し、ビジネスとしてどのように成立させるかを俯瞰して構想する力が必要である。腰塚氏は、これを「たてつけ」の構想力と表現している。そして、これを実践するプロセスを、KM Wayではドメインの決定、顧客課題の捕捉、差別的解決策(技術構想)の検討、ビジネスモデルの検討、重要仮説の洗い出し、仮説検証に分け、これらをスパイラルで回すように定義している。また、検討に必要な工数割合としては、「事業ドメインの決定」から「顧客課題の捕捉」までに3割、「差別的解決策の検討」に3割、「ビジネスモデル構築」から「仮説検証」に3割と定義している。
これらのフェーズにおいて、最も重要なのは「事業ドメインの決定」から「顧客課題の捕捉」であることは言うまでもない。事業ドメインを検討する際には、まず時代の要請を見極めるために、一般的にはPEST分析などのマクロ環境分析を行う必要がある。この分析において、自ら考え分析することと同じレベルで「有力機関や企業がいかに分析しているか」を押さえることが非常に重要だと腰塚氏は語っている。自社の強みである材料・光学・画像・ICTなどが主要シンクタンクにどう読まれているかを分析すること、つまり分析が手前味噌にならないようにしているのである。
また、どこで戦うかの具体的な検討においては、マクロドメイン(ブランド、価値提供能力が強い土俵:チャネル・技術・メンテナンス・市場知識・知名度など、自社が市場でカスタマーセントリックであり得るところ)とミクロドメイン(マクロドメインの中でより魅力度の高い市場)を定義する必要があるが、この魅力度は、「成長性」、「適社性」、「変曲性」、「競合性」の4つを考える軸(指標)として定義している。調査や考察は、時間を掛けすぎても手抜きでも好ましくなく、型としてロジカルシンキングに俯瞰性を担保できることが重要と考え、KM Wayでは、「この4つ以外は考えるな」と指導しているとのことである。
また、事業ドメインの決定に際しては、これらの指標の中でも特に「変曲性」を重視している。新規ビジネスとして成立させるためには、市場参入の余地の大きさが非常に重要となるからだ。その検討に際しては、枝葉ばかりを見て「Single Lock-on」にならないように、「森を見ろ」と注意しているとのことである。そして、顧客課題の捕捉では、提供するCVP(Customer Value Proposition)の定義の重要性と、着眼大局・着手小局の姿勢で考えることの重要性を強調している。お客様との議論では、新たな題材を持っていくと好意的に評価してもらえることも多い。しかし、多くの場合はそれが「nice to have」のレベルであり、あったらいいかもしれないが、そこには実際にはお金を払わない。お客様にとって、「must have」、「have to have」を提案し、CVPを明らかにして「willingness to pay」につなげられるようにしているのである。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授