ビジネス環境が、不安定で不確実性が高く、複雑かつあいまいな「VUCA」の時代とは、どのような時代なのか。また、VUCAの時代において、リーダーにはどのような役割が求められるのだろうか。
ITmedia エグゼクティブ勉強会に、グローバル ナレッジ マネジメントセンターの上田禎(うえだ ただし)氏が登場。「VUCAの時代:リーダーに求められる役割とは? 〜不安定で不確実、複雑で曖昧な時代〜」をテーマに、ビジネス環境が激変するVUCAの時代に、ビジネスパーソンはどのように対処し、リーダーは何をすべきかを語った。
グローバル ナレッジ マネジメントセンターは、日本において米国AMA(アメリカン・マネジメント・アソシエーション)の事業を展開するために、2012年に設立された株式会社である。AMAは1923年に米国で設立され、日本では、1993年より研修プログラムの提供を開始した。日本支社の開所式では、AMAの終身顧問であり、経営学者のピーター・ドラッガー氏もスピーチをしている。
VUCAは、1990年代に軍事用語として誕生した言葉である。変動制(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字に由来する。VUCA前の戦争は、国と国の戦いだった。そこで、統合参謀本部が作戦を作り、現場の部隊が作戦を忠実に実行するだけだった。ビジネスも同様で、トップマネジメントが戦略を立て、現場が実行するモデルだったため、組織の形態はピラミッド型だった。
しかし、2001年に始まったアルカイダとの戦争により状況は一変する。最大の変化は、アルカイダが国ではないことだ。組織のようではあるが、誰がトップかよく分からない。また、トップが作戦を立て、それを現場が実行しているわけでもない。思想に同調した人たちが、同時多発的にテロを行う。これまでの国を中心とした戦争とは、スタイルがまったく異なる。そこでVUCAという言葉が生まれ、その時々に応じた戦い方が必要になった。
「感覚的には、ビジネス業界よりも米軍の方がリーダーシッププログラムは進んでいる。AMAでは、米軍とともに、数多くのリーダーシッププログラムを開発しており、このプログラムは、ビジネス業界にも十分に転用できる内容である」(上田氏)
高度経済成長期には、未来は現在の延長線上にあると考えられていた。そのため、生産性を向上し、効率よくアウトプットすることにフォーカスしていた。この時代は、トップマネジメントが戦略を考え、現場が実行するというモデルだった。現場が、生産性や品質を向上していけばよかった時代である。しかし現在は、過去の延長線上に未来がないVUCAの時代である。この時代にリーダーは何をすればよいのだろうか。
VUCAの時代には、「イノベーション」や「新規参入者」により、業界の常識が大きく変化する。イノベーションの代表例としては、「IoT」「Fintech」「VR(仮想現実)」「AI(人工知能)」などがあり、次のビジネスにつながる可能性を秘めている。
また新規参入では、例えば自動運転の分野に、AppleやGoogleが参入している。上田氏は、「日本の自動車運転は、人間の運転を自動車がアシストするというアプローチで開発されている。一方、AppleやGoogleの自動運転は、運転を自動化するという考えではなく、物体を自動で動かすというアプローチである」と語る。それでは、VUCA時代においてビジネスを推進する上で、これまでとは何が違い、何が必要なのだろうか。
AMAでは、2006年に「変化の激しいビジネス環境」に関するリサーチを実施している。調査対象は、1400人のエグゼクティブと管理職だ。内容は、(1)組織が外部環境の変化をどのように捉えているか、(2)変化に対応するために何を実行しているか、(3)各市場において高い業績を残している企業が、変化に対応するために何を行っているかである。
その結果、自分の組織が経験している変化のペースが、5年前と比べて早まっていると回答したのは82%に上った。また、69%が過去12カ月間に自分の組織が驚きや衝撃を伴う変化を経験したと答えている。
「企業の変化のスピードよりも、世の中の変化のスピードが速くなっている。頻繁かつ短期間に倒産している大企業が増えている。これまでの成功事例が、今後も役立つとは限らない。周囲の状況に追い込まれてからではなく、自らビジネスモデルを改革できる能力を持つことが必要になる」(上田氏)
例えば、富士フイルムは「写ルンです」が絶好調の時代に、デジタルカメラ時代に向け、医薬品や化粧品の事業を立ち上げる準備をしていた。上田氏は、「“ゴー”を出したトップマネジメントが素晴らしいと思う。フィルム全盛期に、なかなかできる意思決定ではない。追い込まれてからではなく、早め、早めに変革することが必要になる」と話す。
「高い業績を残している企業に見られる傾向として、自社を俊敏性(Agility)と弾力性(Resilience)が高い組織であると認識している。変化をチャンスと捉え、変化のペースは速まっても予測可能と考えている。個人、チーム、組織全体で、変化に対応する能力を備え、トレーニングなどを実施して、リーダーの変化対応力の向上を図っている」(上田氏)
つまり、俊敏性と弾力性が重要になるが、これをまとめたのが、Dr.ニック・ホーニィー氏である。同氏は、組織とリーダーシップを分析し、変化の激しい時代に生き残っていくために、組織としてすべきことを「The AGILE Model」としてまとめた。ポイントは、大きく2つ。「5キードライバー(5つの領域)」と「3つのファクター」である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授