一流の研究機関で行われたモチベーションに関する実験結果ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

私たちを動かしている「モチベーション」とは一体なにか? スタンフォード大学やハーバード大学をはじめとする、各研究機関で解明された「人の心理と行動」のパターンを紹介する。

» 2017年07月27日 07時13分 公開
[池田貴将ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。


 私たちには意思があり、意思があって動いている。でも、意思じゃないものも私たちを動かしている。私たちを動かしている「モチベーション」とは一体なにか? ここでは、スタンフォード大学やハーバード大学をはじめとする、各研究機関で解明された「人の心理と行動」のパターンを紹介する。

なぜ私たちは、「やりたいこと」を選べないのか?(機会費用)

『図解モチベーション大百科』

 まず、このような実験があります。

 被験者をAチーム、Bチームに分けます。そして、こんなイメージをしてもらいます。あなたは、アルバイトでためたお金で何か買い物をしようと街を歩いています。すると、ずっと買いたいと思っていたビデオが、特別セールで14ドル99セントになっていました。

 Aチームに質問をします。次のうち、どちらを選びますか?

(1)このビデオを買う

(2)このビデオを買わない

【結果】

(1)75%

(2)25%

 「買う」「買わない」という二者択一だと、ほとんどの人が「買う」を選びました。

 そして、Bチームには次の質問をします。

(1)このビデオを買う

(2)このビデオを買わず、14ドル99セントで「別のものを買う」

 結果はどうなったでしょうか?

(1)55%

(2)45%

 つまり「お金を他のものに使ってもいい」という自由が与えられただけで、半数近くの人が「だったら、別のものを買う」と意思表示をしたのです(参考:イェール大学 行動経済学者シェーン・フレデリックの実験)。

 この実験結果について、さまざまな捉え方ができますが、私はここに「行動を先送りするメカニズム」が隠れているのではないか、と考えました。

 実験では、「買うか」「買わないか」という選択肢であれば、75%の人が「買う」と答えました。それなのに、「別のものを買いますか?」と問われたら、「買う」人は55%に減りました。

 これは言い換えると、「別のものも買えますよ」とアドバイスされただけで、20ポイントもの人が「買う」という選択ができなくなってしまった、ということを意味します。

 私たちの毎日も似ていませんか?「やりたい」「やらなきゃ」と思うことがあっても、「他のことをやってもいい」ことに気がついた途端、急に「やる」という選択をしにくくなるということが。

 たった1つの選択でさえ、5人に1人が脱落するわけですから、日常において数え切れないほどの選択(一節では、1日に1万回ともいわれています)をする私たちが、「やると決めたことをやる」のは容易ではありません。

 ここで、いま、すぐに行動しなくてもいい、他の行動に時間やエネルギー、お金を使ってもいい。そう思えることは、自由かつ便利で幸せな状況にも見えますが、選択肢が多いのは、望む行動から遠ざかる原因でもあるのです。

 選択に関するある研究によれば、「私たちのストレスの多くは、常に多くの選択肢にさらされていることが原因だ」という結果が出ています。

 やりたいことが目の前にあるのに、「もっと他にできることがあるかも」「もっと別のことに使った方が賢いかも」と考えることによって、「選ぶ」ことを先延ばしにしてしまうのです。そんな風にして、「目の前にある欲しいものを選ばない」のは大きなストレスだというのです。

 いつもモチベーションが高い人と、なかなかモチベーションが上がらない人との差は、ここにも存在するような気がします。

 モチベーションの上がらない人は、目の前にやることがあっても、「別のことがもっとやりたいかもしれない」と見送りやすく、モチベーションの高い人は、目の前にあることをただ選ぶだけです。

 結果的に、前者はストレスをため、後者は充実した日々を過ごします。この「小さな差の積み重ね」が、大きな差を生むのではないでしょうか。

なぜ私たちは、「やるべきではない」ことに手が伸びてしまうのか?(マシュマロ実験)

 続いて紹介するのは、このような実験です。試食調査として、24枚入りのクッキーを協力者に渡します。Aチームには、むき出しでクッキーが入っている箱を渡すBチームには、1枚1枚、クッキーが個包装されている箱を渡す

 その結果、

 Aチームは6日間でクッキーを完食した

 Bチームは24日間でクッキーを完食した

(参考:行動経済学者ディリップ・ソマンとアマール・チーマの実験)

 ある行動をしがちか、避けがちか、その差は、報酬を得るまでの必要アクション数にあるというのです。私は、なるほど! と思いました。

 私たちはふとした時間があると、ついSNSやメールをチェックしてしまいます。それはなぜでしょうか? スマホをつかんで、画面にタッチをするだけだからです。つまり、報酬を得るまでの必要アクションが圧倒的に少ないのです。

 私たちの活動はアクション数が少ない方へ、少ない方へと流れていくので、アクション数を意図的に増減させるのは、生活に変化をつけるのに有効な手だてです。例えばSNSのとりこにならないようにするためには、スマホを手の届かないところに置いたり、バッグの奥底の取り出しにくい場所や、引き出しの奥深くにしまったりするといいでしょう。ふとSNSが気になっても、スマホを取り出すのが面倒くさくて諦められます。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆