自然災害や資源不足など、世界には数十億人規模に影響を及ぼす問題が多数ある。そうした社会問題をテクノロジーなどの力で解決しようとするのが米シンギュラリティ大学だ。
2045年、AI(人工知能)が人間の能力を超えるとされている。いわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」だ。これによって世の中はどのように変わるのか。その到来を前にわれわれは何をすべきなのか。
「恐れる理由は何もない。テクノロジーとどう共存していくのかが肝心だ」。こう語るのは米シンギュラリティ大学のロブ・ネイルCEOだ。
シンギュラリティに関する議論の中で、AIによって人間の仕事が奪われる、人類が絶滅させられるといった意見も耳にするが、ネイルCEOはあくまでAIのような新しいテクノロジーはデジタルのインテリジェンス(知性)であり、人間のような欲望など持っていないという。むしろ、そうしたインテリジェンスといかに共存するかが鍵だとする。
「かつてIBMのスーパーコンピュータ『Deep Blue』に敗れたチェスの世界王者のガルリ・カスパロフ氏は、そのままチェスを引退するのではなく、AIについての研究を始めた。その結果、彼が考え着いたのは人間とコンピュータがお互いの強みと弱みを補完して一緒に戦えば、ほかのコンピュータにチェスで勝つことができるということだ」(ネイルCEO)
では、こうした来るべき将来に備え、われわれ人間は何をすべきなのだろうか。ネイルCEOによると、急速な世の中の変化に対応できる新たなスキルセットを持つことや、変化の原因などを構造的に理解しておくことが重要だという。加えて、AIや遺伝子などの活用に対して、誰がどのような倫理観を作るのかを決めておく必要があるという。そのためには世界中から多彩な人々が集まって議論する場が不可欠であり、それがシンギュラリティ大学の役割なのだとする。
シンギュラリティ大学とは、AI研究の権威で、シンギュラリティの概念を打ち出したレイ・カーツワイル氏と起業家のピーター・ディアマンディス氏によって2008年に創設された教育機関で、米国航空宇宙局(NASA)の敷地内に構える。
主なミッションは、数十億人規模の影響がある世界の社会問題に対し、テクノロジーや人間の英知などを結集して解決策を導き出すことだ。それに向けて世界中から多種多様な人材がシンギュラリティ大学のプログラムに参加している。
既にいつくかの実績が出ている。同大学のプログラムから生まれたスタートアップ、米マターネットは交通インフラに着目。主に途上国では台風や洪水などによって道路や橋が壊れてしまい、多くの住民が支援物資などにアクセスできなくなるケースが多い。そこでマターネットはドローンによる配送システムを構築。ハブとなる拠点間をネットワークで繋ぎ、そこをドローンが自動走行するというものだ。早くも5〜6年前には実証実験を行っており、ドミニカ共和国やブータンなどで医薬品を難民キャンプに届けたり、スイスで郵便局と配送テストを行ったりした。2016年には独ダイムラーとパートナーシップ契約を結び、ドローンの開発支援として今後5年で計5億ユーロ(約570億円)の出資を受けることになった。
もう1つが米メイド・イン・スペースである。同社は宇宙空間の3Dプリンタ活用を進めているベンチャーだ。現在は国際宇宙ステーションで3Dプリンタを使って交換部品やツールなどを制作しており、NASAから2年間で2000万ドルの予算が付いたことで、もっと大きな構造物を作るプロジェクトを立ち上げた。
「100年後には宇宙で当たり前のようにモノ作りが行われているはずだが、現在は同社が唯一の企業である。この取り組みは社会的に大きな意義がある。地球の数少ない資源のために戦争が起きたり、環境破壊が行われたりしているが、ほかの星から資源が持ち込めるようになれば、地球にとって大きな価値をもたらすだろう」(ネイルCEO)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授