ドローンの登場は「空の産業革命」といわれ、さまざまな産業における利活用が期待されている。しかし現状では、非常に限定的な利用に限られ、爆発的な普及に至っていない。ドローン市場の現状と課題、さらに今後の取り組みについて紹介する。
ITmedia エグゼクティブ勉強会に、アイ・ロボティクス 共同代表の小関賢次氏が登場。「ドローンビジネス最前線」をテーマに、政府や海外の取り組みの現状からドローン社会実装に向けた課題、アイ・ロボティクスが取り組んでいる山岳捜索におけるドローンの活用事例、各産業へのドローン利活用までを紹介した。
アイ・ロボティクスは2016年6月に、インダストリアル・ロボティクス技術研究会として発足。同年10月に、「ジャパン・イノベーション・チャレンジ2016」の「発見」部門で最初に課題達成し、それを機に同年11月に現在の社名で法人化した。ちなみに、2017年に開催された「ジャパン・イノベーション・チャレンジ2017」の「駆付」部門でも参加期間中、100%成功している。
現在の取り組みについて小関氏は、「前職で航空管制システムを開発していた経験から、“IBM Blue Hub”というベンチャープログラムの支援の元、タブレット端末で利用できる“ドローン管制システム”を開発している。その背景に、ドローンがどこを飛んでいるのかを把握できないまま飛行させる危険性が社会問題になっていることがある」と語る。
また、ある自治体と災害時にどの道路を使えば安全に避難できるかの調査をドローンで実施。災害対策に必要な音声取得技術を、NTT-ATシステムズと共同研究している。さらにハカルスと共同で、人工知能(AI)を利用して、ドローンが撮影した画像から、建物の壁面の補修箇所を検知する仕組みを研究している。
その他、茨城県河内町の旧金江津中学校跡地を譲り受け、「ドローンフィールドkawachi」を開設。隣接する川沿いに片道5キロの長距離フライトが可能な練習用コースも実現している。小関氏は、「こうした取り組みは、地方創生プログラムの一環となるものとしても期待されている」と話している。
一般的にドローンは、「空の産業革命」といわれているが、総務省では「第4次産業革命」と位置付けており、「IoT化により低コストでビッグデータ収集が可能になり、AIにより解析することで新たな価値を創造すること」であると定義している。さらに、その先の「ソサイエティ5.0」の実現に向けても第4次産業革命への期待が高まっている。
小関氏は、「ドローンに関して間違いないことは、IoTのセンサーの一つであるということ。現実世界でIoTによりデータを収集し、サイバー空間で分析して、その分析結果の利活用で新たな価値を創造し、現実世界にフィードバックする仕組みづくりが第4次産業革命における最大のポイントとなる」と語る。
ドローンが現実世界からサイバー空間に送信するデータとは映像である。この映像をいかに分析し、新たな価値を生み出すかが今後の課題だが、現状では非常に限定的な利用に限られ、爆発的な普及に至っていない。小関氏は、「日本は検討段階が約半分、導入〜基盤化が半分で、すでに利活用段階の欧米に比べて大きく後れを取っている」と言う。
ただし欧米においても、利活用されているのは農業やインフラ点検の分野であり、分野としては、日本も欧米も大差はない。また、第4次産業革命に向けた環境整備に関する課題には、人材育成や標準化、投資などがある。小関氏は、「技術としては浸透しているし、成長率も高いが、売り上げが伴わないために企業が投資しにくいのが実情である」と話す。
ドローンからデータをリアルタイムにダウンロードすることも課題の一つ。ドローンデータは、非常に多くの帯域幅を必要とするので、5GネットワークやLPWA(Low Power Wide Area)の普及が期待されている。また総務省では、生産年齢人口の減少に伴う経済の縮小という社会的課題の解決に、ドローンを含むICTの活用が不可欠と考えている。
小関氏は、「ドローンにより、物流などの“実作業”が代替されたり、取得できる情報の種類・量の増加により新しい価値を創造したり、空撮映像により地域観光資源の新たな魅力を発信したりすることが期待されている」と語る。こうした背景もあり、内閣府が推進しているのがソサイエティ5.0である。
「現在のドローンの利活用がソサイエティ4.0であり、AIとロボットにより、あらゆるニーズを完全に自動化するのがソサイエティ5.0である。ドローンが本格的に活躍できるのが、ソサイエティ5.0の世界。内閣府では、ソサイエティ5.0の早期実現を目指しており、そのための準備も重要になる」(小関氏)
米国の連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)では、ドローンの個別認定、飛行登録、飛行承認についてのシステム開発、民間委託による運用の試行を開始している。米国では、認可を取得した企業は、ドローンを飛ばしてもいいことになっており、この運用を民間企業が行っている。すでに、3つの企業が認可を受けている。
「日本はまだまだ規制が多いが、米国では認可が始まっているのは大きな差である。また中国では、Ehangがエアタクシーを製造しており、ドバイなどで導入プロジェクトが進んでいる。またEhangでは、すでに国家レベルのドローン管制システムを構築し、運用準備を進めている」(小関氏)
スイスでは、SWISS POST & Matternetが、医療用の血清をドローンで運ぶ運用を、2017年10月より開始。米国では、ボーイングとエアバスが「空飛ぶタクシー」の分野で競合している。小関氏は、「ドローンの活用よりも、空飛ぶタクシーの方が、実用化が早いのではないかといわれている」と話す。
また、ドローンの管制システムを推進する国際的なコンソーシアムであるGUTMAのカンファレンス「GUTMA Conference」が、2018年3月に日本で開催される。「これは日本市場に対する世界の期待の表れといえる」と小関氏は言う。さらにドローンの普及促進を目的に、いくつかのコンテストも展開されている。
例えばボーイングでは、自社で全てを開発するには限界があることから、「GO FLY」と呼ばれる賞金2億円のエアタクシー開発コンテストを開催した。また2017年にエアバスが実施したのが、3キロの荷物を100キロ先に、また5キロの荷物を60キロ先に運ぶ「Airbus Cargo Drone Challenge」と呼ばれるコンテストである。
(出展:「Airbus Cargo Drone Challenge」に世界から最先端のドローンアイデアが集結)
「アイ・ロボティクスでも、日本からシリコンバレーまでの8000キロを無人で飛行する“PACIFIC DRONE CHALLENGE 2019”というコンテストを表明している。現在、日本、米国の企業が1社ずつ参加することが確定している」(小関氏)
ある産業用ドローンの市場予測では、2024年にはドローンの台数が、非軍用ヘリの63倍になると予測されている。期待値としては非常に高いドローンだが、普及促進が加速しないというギャップがある。このギャップが「キャズム」であり、優れた技術でも、大衆化するまではしっかりと見極めることが必要になる。
「アイ・ロボティクスで1年間、ドローンビジネスをやってみて、ドローンがキャズムを超えない背景として、飛行ルートの作成、空域の安全確保、操縦技術の3つがあると感じている」(小関氏)
飛行ルートの作成では、現在のドローンは決められたルートを高精度で自律飛行する能力を有しているが、実際には人の介在が大きなコスト増となっている。特に自律飛行ルートの設定や操縦を人が行っているため、人件費が大きなコストになってしまい、これにより気軽にドローンを使ってみることができないことが第1の障壁である。
空域の安全確保のためには、飛行に特別な許可が必要になる。しかし、許可が下りても危ないのが実情である。いきなり、まったく想定外の場所にドローンが落ちることがある。通信環境でドローンが暴走することもあるが、操作ミスで暴走することもある。人が操作している限り安全確保は不十分といえる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授