今だからこそ冷静に人工知能の本質を考えてみよう。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
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そこには無いものを実際には「ある」と見なして考えたり行動したり、まだ無いものを実際につくろうとしたり、人間は「無」を「有」に変える力があります。それは「想像力」や「創造力」と呼ばれる、恐らくは人間の脳にしか備わっていない不思議な力です。
2017年大いに話題を呼んだ「サピエンス全史」にも想像力が取り上げられています。サピエンスだけが想像力を持ち、虚構、すなわち架空の事物について語れるようになった、と。
しかし時に、想像や創造が妄想に変わります。非論理的で、筋が通っておらず、SFの枠を超えた、具体性に欠ける妄想が飛び交う代表例が「人工知能」ネタです。
これまで私は「真説・人工知能に関する12の誤解」と題した連載を書いてきました。連載では、人工知能に関する妄想を一つ一つ取り上げて「それは間違っている」「それはまだ実現しない」と訴えてきました。2018年には、一連の連載が「AIは人間の仕事を奪うのか? 人工知能を理解する7つの問題」と題して書籍化されています。
連載を通じて、人工知能に対して「妄想」を抱く人には2つの特徴があることが分かってきました。今回はその特徴を紹介します。
物事には二面性があり、良いこともあれば悪いこともあります。映画「相棒」でも「正義の定義なんて立ち位置で変わるものでしょう。まさか絶対的な正義がこの世にあるなんて思ってる?」というせりふがありました。私たちは普段、善人のように生きているつもりで、知らず知らずのうちに悪に手を染めているのです。
どこから見るかで物事は変化します。しかし、人工知能を巡る一連のニュースは非常に極端で、ある側面しか取り上げられていません。人工知能が人類を駆逐する、人工知能に仕事を奪われる、人工知能が少子化が進む日本を救う、人工知能は人類の救世主……人工知能を善人か悪人かどちらかに決め付けて、賛美するか非難するばかりです。その方がPVを多く獲得できるかもしれませんが、本質を理解するのにほとんど役立ちません。
物事を立体的ではなく平面でしか報道しないメディアの姿勢も問題ですが、それを真に受けて「人工知能ってヤバいんだ」「人工知能に早く仕事を奪ってほしい」と反応する人にも私は苦言を呈したいのです。
「知らないんだから仕方がないだろう」という反論はあるかもしれません。しかし、冷静になって考えてみてください。例えば「人工知能と対話が成立している。いずれは人間のように人工知能も自我を持つのではないか?」という疑問を抱いている人は多くいます。
では、そもそも自我とは何でしょうか。例えば、隣の席にいる同僚の「自我」をどうやって証明できるでしょう。普段会話している同僚は自分と同じ人間だから、同じく自我があると勘違いしているだけかもしれません。うまく説明できないものを人工知能に当てはめて考えても、余計に混乱するだけです。
チャットbotやPepperと対話をしているかのように思っていても、実際のところは相手が発した言葉に対して、用意された解答群の中から最適な答えを選び出しているにすぎません。プログラムを作るエンジニアは、受け手がコミュニケーションできていると錯覚するように工夫を凝らします。返答内容の精度が高く、「まるで人のようだ」と認識されると、エンジニアはとても喜ぶでしょう。
このように、冷静になって考えてみればおかしい話が、なぜか「人工知能」と付くとみんな恐れたり喜んだり、思考が停止して感情が優先されるのです。
私たちは人工知能を作れる必要はありません。コードを書ける必要もありません。しかし、こうした理屈の無い妄想に惑わされないために、人工知能の本質は何かを知っておく必要があります。そのためには「リベラルアーツ」が求められると私は考えます。
リベラルアーツとは、本質を見る目を身に付けるための学問です。例えば、月が満ち欠けするのは、月自体が消えたり生まれたりしているのではなく、地球の周りを回ることで陰が生まれて欠けているように見えるだけです。満ち欠けは現象であり結果です。月の公転軌道は本質であり、原因と捉えられます。
不変の「本質」と可変の「現象」を見極めることが大事です。それを論理的に思考する能力を養うのがリベラルアーツなのです。
しかし、多くのビジネスパーソンが「プログラムは書けないから」「難しいことはよく分からないから」という理由でリベラルアーツを身につける努力を放棄する一方で、「人工知能についてサクッと分かりませんか?」と答えだけを求めています。だから極端な人工知能論に振り回されてしまうのではないでしょうか。
人工知能の技術が格段に進化しても、活躍している業界とそうでない業界があります。向き不向きがあるのでしょうが、技術だけでは解決しない問題があるのも事実です。
例えば自動運転技術の場合、技術自体は日進月歩で発展していて、もしかしたら研究所内の私道ではレベル5と呼ばれる完全自動運転が可能な車が走行しているかもしれません。しかし道路交通法により公道においては、自動車は運転者による制御が必要です。法律を改正しない限り、完全自動運転技術は永遠に「研究」のままなのです。
それ以外に、自動運転車が事故を起こした場合の自賠責保険も、現行は対応できません。事故が起きてなんらかの損害を与えてしまった場合、誰が保証するのか2018年現在ルールは決まっていません。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授