「日本人の生産性は低い」といわれて久しいが、無意味なルールや、「なんとなくやらなければいけない空気」のようなものが、効率化を妨げているようだ。C Channelを2年で10か国、SNSファン数のべ2500万人まで急速に成長させた森川社長に、効率化のコツとして、「データ収集」「仕様書」について話を聞いた。
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「仕事が終わらない」人の中で、結構時間を割かれてしまうものの一つに「データ収集」があるのではないでしょうか。プレゼンや提案をするにしても、裏付けとなるデータが必要になります。
社内の提案書や資料を作成するとき、データ集めは意外と時間がとられます。プレゼンしたときに、「このデータがない」「ここのロジックが成り立たない」と言われることを恐れて、事前にあれもこれもそろえようとするのが原因だと感じています。
これではいくらデータを集めてもきりがありません。それなら、先に結論を上司に伝えて、「どんなデータが足りていないですか?」「どこが分かりませんか?」と聞いてみたらいいと思います。そうしたら、そこだけ用意すればいいわけですよね。あれもこれも準備する必要はありません。
そもそも上司にしても、「データも必要だけど、まず先に結論がほしい」という場合が多いはずです。だったら結論と今あるデータだけ先にメールで送って、「ここが足りない」「こんなデータがあるともっと説得力が増す」と言われたものをあらためて足す方がスピーディーです。
資料で展開するロジックの中でどんな数字を載せるのかということも悩みの種になりやすいわけですが、意外と多いのが資料を作った側はよかれと思っていろいろなデータを載せても、聞く側は数字が多すぎてロジックが頭に入ってこないということです。
ロジックを補完する数字は、3つぐらいあれば十分です(実際に分析するときはもっと多くなりますが)。
しかもその数字はその都度探すのではなくて、日頃からKPIなどを意識して、用意しておくのが理想。それをただ盛り込むだけにすれば時間がかかりませんし、プレゼンのときに突っ込まれても適切な回答ができるはずです。
また、急ぎの時は、情報を集めるのは同僚にお願いしてもいいわけでしょう。「こんなデータはない?」と聞いてみると意外と持っている人はいるかもしれません。極端な話、あるデータがどうしても見当たらないならTwitterなどで「こんなデータを探しています」と投稿したら、詳しい人が教えてくれるかもしれません。その間、自分は別の仕事ができます。
もっとも、このデータ主義は日本企業の問題の一つと感じます。
仮説精度を高めるために情報を集めることは大事ですが、ありとあらゆる情報を集めようとする人が多い気がしています。今の時代、情報は集めようと思えばいくらでも集められるので、はっきりいって際限がありません。
それがもたらす弊害は、情報を集め、思案している間に世の中が変わってしまうことです。すると永遠に情報を集め続けないといけなくなるので、いつの間にか「研究職」のようになってしまっているビジネスパーソンもいます。
ビジネスと学術研究の最大の違いは、ビジネスは必ず実行が伴うことです。仮説がないまま実行に移すのも問題ですし、情報がないまま仮説を立てるのもまずいと思いますが、いざアウトプットが必要なときにデータを探すのではなく、日頃からアウトプットを前提に、アンテナを張っておくべきです。
例えば会議で新商品のアイデアが出てきたときに、そこで営業担当者が「じゃあお客さんにヒアリングして報告書にまとめますね」と言うのではなく、日頃からお客さんの声を集めておいて、その場でユーザー目線の意見を言える、ということです。
そこで出てくる情報はもしかしたら数字の根拠に基づくものではないかもしれません。でもそもそも意思決定をするときに毎回データが必要なのかといったら必ずしもそうではないはずです。大方の方向性くらいは示すことができるでしょう。
それなのに、ごく小さなことでもデータを求めたがる風潮があります。なぜそのような非効率さがまかり通るかというと、大きく2つの状況があります。1つ目は、大企業になると誰もが失敗したときの責任を負わされたくないからです。その結果、「データ上ではこうだったんです!」という逃げ道を用意するためにデータ至上主義に陥ることが多くあります。2つ目は日本企業では、会議の仕組みそのものが「全員賛成ではない限りやらない」という風潮があるからだと思います。
ディベートに不慣れな日本人は、反対意見を言われるとケンカを売られたと思う人が多いでしょう。ですから全員賛成にするためには全員が納得できる客観的なデータと分厚い資料が必要になります。そしてそれを用意するために社内の貴重なリソース、つまり社員たちの時間を浪費しているのです。
でも本質的な会議の在り方は「多様な意見を出し合ってその中から正しい答えを選ぶこと」であり、全員を納得させることではないはずです。このような観点から情報収集に明け暮れる大企業の人たちを見ていると、「本当にそのデータっているの?」といつも感じています。
しかも、ようやく全員納得させたところで市場はどんどん変化しているので、うまくいく保証などありません。
逆にいえばスタートアップやベンチャー企業の強みは大企業が社内調整や調査に時間がとられている間に迅速に動けることですから、ベンチャー企業にいる私たちはなおさら情報収集の作業も高速化しないといけないのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授