効率化のコツは「どうせ変わることに時間をかけない」ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2018年06月14日 07時14分 公開
[森川亮ITmedia]
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 さて、データ主義の社内で、この問題を、どう解決すればいいのか。

 まずは、反対しそうな人にあらかじめ、「どのあたりが懸念されるか」を聞いておき、それを払拭(ふっしょく)できるデータを集めるとよいでしょう。向こうは自分の意見を聞いてくれたと思いますから、頭ごなしに反対をしてこなくなるかもしれません。

「仕様書・事業計画書」はいらない ――どうせ変わることに時間をかけない

 また、私が不要だと思えるものの一つに、仕様書があります。

 いわゆるアジャイル開発の話になりますが、完璧な仕様書をいきなり作ろうとすることもやめるべきです(エンジニア以外では企画書もその類いかもしれません)。仕様書がないと物が作れないとなると、仕様書を作っている間、エンジニアは待たなくてはいけません。

 それはプロジェクト全体からみたら明らかなタイムロスです。

 市場の変化がめまぐるしい今の時代、世の中の流れを先読みして他社よりも先に行動することが何より求められるわけですから、プロジェクトリーダーとしては「いかに1日でも早くリリースにこぎつけられるか」ということを最優先すべきです。

 1日、1週間、1カ月の遅れが、失敗の要因となるのです。必要であれば、リリースしてから仕様書を整理するのはありでしょう。

 そもそもプロダクト開発でいきなり仕様書をしっかり作ったところでその仕様自体、仮説にすぎません。

 プロトタイプを実際にユーザーに触ってもらったら「こんな機能要らない」とか「操作が分かりづらい」とか「こんな機能もあればいいのに」といったフィードバックがどんどん出てきます。

 そのときにすぐに自社のエンジニア、もしくは外注先に対してフィードバックをして、高速で仕様を改善できるかどうかが重要であって、そこに完璧な仕様書がドン!と鎮座していると、「こっちはおたくの仕様書通りに作ったんだから、ころころ仕様を変えないでよ」と不満を持つかもしれません。こうした内部衝突も本当にムダです。

 それだったら最初の商品企画会議の段階からエンジニアも参加してもらって、最初から細かいところまではあえて詰めないで、「取りあえずこんな感じかな」でいったん作って触ってみて、動かしながら改善していった方が結果的にいいものが早く出来上がります。

 エンジニアが受け身だとそれでも嫌がるかもしれませんが、プロトタイプがあるからこそ見えてくる課題というものは絶対にあるわけですから、それをムダな仕事だと解釈する作り手は少なくともベンチャー企業には向いていませんし、市場価値はどんどん下がっていきます。

 仕様書は確認事項の漏れを防ぐためには重要なものではあるものの、実際に必要になるのは主にプロジェクトを引き継ぐときでしょう。つまり、プロダクト開発の最後にきっちり帳尻が合えば十分で、開発の過程では口頭ベースやメモ書きベースで仕事を進めても大きな漏れはない気がしています。

事業計画書は、「最悪のケース」が重要

 仕様書と似た話としては事業計画書も同じです。5年先のビジネス環境など絶対に分からないわけですから、指針にはしつつも、そこに必要以上にとらわれると組織の柔軟性が損なわれてしまいます。

 事業者の目的は「事業を成功させること」であって、事業計画書を作ることはその手段でしかありません(でも大きな組織では役割分担があるため、経営企画部は完璧な事業計画書を作ることを目的とするわけです)。

 もちろん事業計画書を作るメリットもありますが、私が大事にしている視点は「最悪のケース」をどれだけ想定できるか、です。

 未来予測は難しいですが、そうはいっても計画を立てるときの前提条件(例えば特定の市場の伸び率など)は数が限られてくるので、それら前提条件の組み合わせを考えれば20個くらいのシナリオは描けます。

 そのシナリオの中でも特に悪いシナリオにフォーカスして、たとえそのケースになっても組織が倒れないようにリスクを分散させておくといった施策はとれますし、心の中で準備をしておけるので、いざというときに迅速な意思決定ができるというメリットもあります。

著者プロフィール:森川亮(もりかわ あきら)

1967年神奈川県生まれ。1989年筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門で、ネット広告や映像配信、モバイル、国際放送など多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。2003年にハンゲームジャパン(後にNHN Japan、現LINE)入社。2007年、同社代表取締役社長に就任。2015年3月に退任し、顧問就任。同年4月に女性向け動画メディアを運営するC Channelを設立、代取締役社長に就任した。その後2年間で10か国でのサービスを展開し、SNSファン数はのべ2500万人超と、日本最大級のサービスに成長させた。著書に『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)、『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』(朝日新書)がある。


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