トヨタの現場の「やりきる力」ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

トヨタの現場では昔から「巧遅より拙速」という思想が浸透していた。これは、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の考えに基づくものだ。

» 2018年02月01日 07時14分 公開
[原マサヒコITmedia]
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目指すべきは完璧ではなく完了である

『Action! トヨタの現場の「やりきる力」』

 先行きが不透明な時代になってきました。これから先、変化に対応するためにわれわれはどのような行動をとればいいのでしょうか。

 日本一の時価総額を誇るトヨタの現場では、「行動」に関する多くのノウハウがありました。それを拙著『Action!トヨタの現場の「やりきる力」』(プレジデント社)にまとめたのですが、今回は抜粋して“拙速”というキーワードを紹介しましょう。

 拙速とはつまり「拙くとも速い行動」です。トヨタの現場では昔から「巧遅より拙速」という思想が浸透していました。これは、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の考えに基づくものです。豊田喜一郎氏は何十年も前に、現場で次のようなせりふを発していました。

 「議論を先にすることをやめた」

 何か新しいプロジェクトを立ち上げる際に、行動する前に議論をしてみたけれども、そこで出た結論の通りやってもうまくいかなかったのだそうです。そこで、まずは議論をせずに行動から始めてみたところ、最終的にはいい結果を出すことにつながった、ことからこのせりふが発せられたわけです。

 「机上の空論」という言葉もありますが、机の上であれこれ言っていても、いざやってみたら違う結果が見えてくることは往々にしてあるものです。「巧遅より拙速」という言葉の「巧遅」の意味をよく考えてみると、日本企業ではこの状況がまん延しているように思えます。例えば、1つのプロジェクトで会議ばかりを繰り返してなかなか形にならないとか、資料を作るにも細かい部分にばかりこだわってしまいなかなか完成しないとか、「巧みに遅い」というのは何度も見てきた光景です。

 この国には完璧主義者が多いのでしょうか、あらゆる仕事は全て100点を取らなくては次に進めないと思っているのでしょうか、本当に数多くの巧遅な状況を見てきました。しかし、何が必要で何が必要でないかは、やってみないと分からないですし、頭の中で考えたところで完全には把握できません。

 あらゆる仕事で全て100点を取らなくてはならないと考えているのであれば、それはただの自己満足にすぎないのではないでしょうか。そこには「考えることで必ず答えが出せる」という間違った前提があるようにも思えます。

 初めからそんなに能力の高い人はいないはずです。そんな自己満足の「完璧」などは捨ててしまって、まずは「完了」させることを目指すべきではないでしょうか。

すぐに動くことで得られる多くのメリットとは

 実際、拙速に動くことでのメリットは幾つもあります。1つは、「すぐに修正ができる」ことです。速く動いても拙いわけですから、当然ミスや間違いが発覚することは多々あります。しかし、速く動いた分それらをすぐに修正することができますので、正しいものが出来上がりやすいというわけです。

 また、仕事に限らず「自分自身の得手不得手が分かる」ということもいえるでしょう。最近は若年層から「自分に向いていることが分からないのですが」という相談を受けることも増えてきました。しかし、そんな時こそ拙速で動くべきなのです。ほんの少しでも興味があれば、まず動いてみる。「百聞は一見にしかず」ですから、やってみることで向いているのか向いていないのかがその時に分かります。

 人に意見を求めてばかりでなく、情報収集ばかりに時間を費やすのでもなく、まずはできるかどうかやってみるのが最優先です。大切な事実としていえるのは、“答えは1つではないので、理想の答えを創り出すのは自分の行動でしかないということです。

 さらに、拙速によって1歩でも動き出すことで「自分の中のエンジンが掛かっていく」という効果があります。心理学の用語で「作業興奮」というキーワードがあるのですが、とにかく何でも作業を始めてみると、脳の「側坐核」が刺激されて神経伝達物質ドーパミンが出てくるのだそうです。すると、いわゆる「やる気スイッチ」がカチッと入り、ますます行動が加速するというわけです。

 ですから、肝心なのは仕事の中のラクな部分からでも何でもいいので「まず着手する」ことです。どうしても意欲がわかないことに手を付けなければいけない場合でも、まずはその仕事を分解して小さなところから始めてみてください。

 フォード自動車の創業者であるヘンリー・フォードもこんなことを言っていました。「小さな仕事に分ければ、どんなことも難しくはない」と。

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