日々技術が進化する中、IT部門のリーダーは、デジタル変革にどのように取り組めばいいのだろうか。全社を挙げてデジタル変革を推進している富士フイルムホールディングスのITリーダーに話を聞いた。
利益への貢献や効率的な経営の支援、グローバル展開の加速、ガバナンスの強化など、IT部門に求められる役割はますます広がっている。このような経営課題に対して、IT部門のリーダーは、どのように向き合っていけばよいのだろうか。富士フイルムホールディングスでは、IT活用を推進する「デジタル変革委員会」を設け、新たな価値の創出と業務革新を推進している。
これまでの効率化やコスト削減という“守りのIT活用”から、新しい価値を生み出す“攻めのIT活用”へとかじを切り、自らIT部門の変革に取り組む富士フイルムホールディングスの経営企画部 IT企画グループ長である柴田英樹氏に、アイティメディア エグゼクティブ・プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
浅井英二(以下、浅井) 富士フイルムホールディングスは、全社を挙げてデジタル変革を推進している会社というイメージを持っています。デジタル変革を推進するに至った、経営課題についてうかがえますか。
柴田英樹(以下、柴田) 富士フイルムは、現在15種類の事業ドメインを持っています。この事業ドメイン一つ一つにおいて、それぞれに事業特性も違うし、提供する商品やサービスも異なります。BtoB分野もあれば、BtoC分野もあります。BtoBの中でも、完成品を提供する事業もあれば、素材を提供する事業もあります。
そのため、ビジネスバリエーションに富み、変化も激しく、競争も厳しく、ビジネスの先が読みにくい状況です。そこで、事業ドメインごとに、いかに利益を上げていくかが重要課題の一つでした。「筋肉質」という言い方もしていますが、例えばSGA(販売費および一般管理費)をいかに合理化、スリム化していくかといった視点もあります。
バリエーションに富んだビジネスを推進するに当たり、富士フイルムホールディングスでは、大きく4つの経営課題に取り組んでいます。まず1つ目の経営課題は、各事業ドメインが、売り上げはもちろん、いかに利益を増やしていくかです。課題解決にあたり、これまで以上にIT部門がどのような貢献ができるのかが問われています。
2つ目の経営課題は、スピード化です。これまでのIT部門は、業務効率化とコスト削減が主な提供価値でした。業務効率化やコスト削減に加え、今後は、いかにビジネスのスピードアップに貢献し、新たな価値創出につなげることができるかが重要になっています。
3つ目の経営課題は、グローバル化の加速です。富士フイルムでは、それぞれの事業ドメインで、グローバル化を進めてきています。グローバル化においては、事業によって、展開する地域・国、展開の方法が異なり、きめ細かに展開していかなければなりません。アジアや欧州、中東など、全方位で迅速に展開しなければなりません。
4つ目の経営課題は、ガバナンスの強化です。これには、ITガバナンスを強化するという視点と、ITを活用して企業全体のガバナンスを強化するという視点があります。富士フイルムグループは、グローバルで連結子会社が約300社あるので、グループのガバナンスを、抜けなく、漏れなく均一的に強化することが重要です。
浅井 「筋肉質」というキーワードについて、もう少し詳しくうかがえますか。
柴田 富士フイルムホールディングスでは、以前から「スリム&ストロング」という取り組みを推進しています。無駄の排除・改善など効率化することで業務をスリムにしながら、スピードアップと既存事業の付加価値向上により事業を強くすることで、売上・利益を向上する活動です。外部・内部の環境が常に変化し、競争が激しい時代ですので、スリム化とストロング化をバランス良く並行して推進することが重要になります。
浅井 効率化といえば、無駄をなくす、コストを削減するなど、守りのイメージがありますが、スピードというと攻めのイメージがあります。効率化とスピード化の両立が、「筋肉質」につながるのですね。
柴田 現在のビジネスにおいては、ITを最大限活用することで、いかに新しい価値を迅速に創出するかが勝負の分かれ目になります。特に製品のライフサイクルが非常に短くなっているので、これまで以上の圧倒的なスピード感で取り組まなければ市場競争に勝てないのが現状です。もし競合に比べて圧倒的な付加価値がなくても、相手より早く提供することで競争優位に立てます。そこでスピードを意識し、いかにITが貢献できるかが重要になります。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授