なぜレガシー企業にイノベーションが必要なのか既知とアイデアの組み合わせで市場を変えろ(2/2 ページ)

» 2019年10月01日 07時07分 公開
[永井俊輔ITmedia]
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 私がレガシーの価値を実感したのはこのときです。クレストには既存の顧客がいるため、そのコネクションを生かしてすぐにプロトタイプを試してもらうことができました。看板製作の知見も豊富ですから、カメラを取りつける際の注意点なども勘所として分かっています。

 ベンチャー企業が新規で看板サービスを開発するとしたら、おそらく何倍もの時間とコストがかかっていたでしょう。カメラをつける、効果を測定するといった新しいアイデアさえ思い付けば、レガシー企業がイノベーションを起こせる可能性は十分あると確信したのです。

現状維持は退化と同じ

 エサシーを開発したことで、看板業界には効果測定という視点が生まれました。効果を喜んでくれるお客さまもたくさんいますし、その結果としてクレストの業績も成長しました。

 そのことを自慢したいわけではありません。業種、業界を問わず、レガシー企業ならどこでもユーザーを喜ばせ、市場にイノベーションを起こせます。旧態依然とした業界にはLMIが必要ですし、斜陽といわれる業界ならLMIで市場を刷新しなければなりません。そのことを伝えたいのです。

 「斜陽だなあ」と感じつつ、放っておいたらどうなるでしょうか。現状維持は退化だ、という論があります。目先の利益は、既存の技術、経験、人脈といったレガシーを頼ることによって稼げるかもしれませんが、市場は常に変化しています。

 カセットテープはCDになり、その後、ストリーミング配信になりました。フィルムカメラはデジタルカメラになり、スマートフォンのカメラ機能に置き換わりました。今も宿泊市場ではAirbnbがシェアを伸ばし、海外ではタクシーの市場が Uberに置き換わりつつあります。

 消費者が便利で簡単で安く使える商品やサービスを求め続ける限り、市場では必ず新陳代謝が起きます。その結果、市場のプレーヤーが入れ替わり、収益を生んでいた市場が消えてなくなることもあります。だからこそ、放置してはいけませんし、自らの手でイノベーションを起こしていく必要があるのです。

既存の市場を壊さなければならない

 タクシー会社はUberと戦うことになり、フィルムはデジタルカメラによって淘汰されました。LMIは、このような苦境を避けることにもつながります。つまり、レガシー企業であるタクシー会社がUberのようなサービスを作り、レガシー企業であるフィルムメーカーがデジタルカメラを開発するということです。

 その考え方を踏まえて、実際にLMIに取り組んでいる業界もあります。例えば、タバコ業界の各社は自ら電子タバコを普及させ、紙巻きタバコで成り立っていた市場を自ら破壊し、刷新しようと取り組んでいます。

 自動車業界もハイブリッド車や電気自動車を創り出すことによって、ガソリン車需要で成立していた市場を変えようとしています。タバコの市場も自動車市場も昔からあるレガシーマーケットです。歴史や実績にあぐらをかいていたら、いずれUberのようなベンチャー企業が電子タバコやエコカーを作り、彼らに市場を明け渡すことになったでしょう。

 イノベーションが起きない市場は消滅します。または、イノベーションを起こす新たなプレーヤー(ディスラプターといいます)が現れ、市場を明け渡すことになります。それを避けるには、既存の市場を壊すことを恐れず、自ら変えていくしかありません。

 ベンチャー企業に負けないくらい斬新なアイデアを出し、レガシー企業として培ってきたレガシーと組み合わせることが、ディスラプター対策になり、電子タバコやエコカーのような新たな市場を作り出すことにつながるのです。

 駆け足で説明しましたが、LMIの概要と、レガシー企業がLMIに取り組む必要性は分かっていただけたと思います。次回はLMIの流れと方法論を紹介します。

著者プロフィール:永井 俊輔(ながい しゅんすけ)

クレストホールディングス 代表取締役社長。1986年群馬県生まれ。早稲田大学卒。株式会社ジャフコでM&Aやバイアウトに携わった後父親が経営する株式会社クレストに入社。CRM(顧客関係管理)やマーケティングオートメーションを活用して4年間で売り上げを2倍に拡大し、クレストをサイン&ディスプレイ業界の大手企業に成長させる。2016年に代表取締役社長に就任。ショーウィンドウやディスプレイをWeb同様に正しく効果検証するリアル店舗解析ツール「エサシー」を開発するなど、リアル店舗とデータサイエンスの融合を目指す。成熟産業にITやテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を生み出すLMI(レガシーマーケット・イノベーション)に尽力。


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