スモール・ハピネスのオリジンともいうべき人間関係に焦点を当てて、そこから得る方法について考えてみたい。
本コラムでは、日々、スモール・ハピネスを味わうことを追及している。その際、(1)それまで関係のなかった何かと何かを「つなぐ」、(2)つながったことで「やった!」というポジティブな感覚が生まれる、(3)そういう感覚を「スモール・ハピネス」と認定する、という3ステップを用いる。(図1)
今回は「人間関係」においてスモール・ハピネスを味わう方法を紹介したい。
4、5年前、ハーバード大学医学部が行った1938年から80年近くにわたる「長寿者の健康や幸せ」についてのリサーチを知人から紹介された。その結論は、「80歳のときに健康状態がよい人たちは、さかのぼって50歳のときに人間関係で幸せだった人たち」である。人間関係の中でも、「親密な」人間関係が幸せ度合いに強く影響し、その影響はお金や地位よりも格段に大きい。
私はなるほどと納得するとともに、学業や仕事のいずれにおいても、パフォーマンス最優先で人間関係はあくまでその手段として位置付けていた自分の短慮を反省し、「自分らしい人間関係の作り方は何だろう」というテーマを宿題として設定した。
スモール・ハピネスについて考える直接のきっかけは、このリサーチで「幸せ」問題に触れたことだった。ただ、私のような人間はそう簡単にパフォーマンス優先思考から抜け出せるものではなく、前回話したように、まずは、パフォーマンスにひっかけてスモール・ハピネスを考えた。その意味で少々回り道をしたが、今回は、スモール・ハピネスのオリジンともいうべき人間関係に焦点を当てて、そこからスモール・ハピネスを得る方法について考えてみたい。
6つポイントがあるので順番に話そう。 (図2)
人間関係とは人と人が「つながる」ことだ。つながることでスモール・ハピネス成立条件(1)の何かと何かを「つなぐ」要件を満たせる。その際、人間関係の「双方向性」という特徴に着目する。
例えば、私とミナト(人名)の間で人間関係が成立するには、私とミナトがお互いにつながったと思うことが必要だ。相互性を担保するお作法として、関係形成においてギブ・アンド・テークのバランスに留意する。これから述べるように、ギブ・アンド・テークに留意するとスモール・ハピネスを生み出す機会も増える。
まず私は、ミナトに何かギブしようと思う場面で、ミナトが欲しいものや喜ぶものが何かと考える。その際、前回話した「(い)情勢(状況)解読」と「(ろ)需要把握」を用いて、例えばミナトは今こういう状況だからきっとウエブカメラとヘッドフォン付きマイクがほしいだろうと察しをつける。
スモール・ハピネス・ゲーム的には、(い)(ろ)を通じて察しがつくだけで得点となり、私はちょっとうれしくなる。さらに、私が察したモノを実際にミナトにギブし、ミナトが喜べば、私はやった! と思い、またスモール・ハピネスを感じる。喜んだミナトもスモール・ハピネスを味わっている(ミナトも同ゲームに誘ってある)。
他方、ミナトは何かお返しのギブを考える。その際、ミナトに私が欲しいもののヒントを伝えて、ミナトが私について「(い)状況解読」と「(ろ)需要把握」することを助ける。首尾よくほしいものをテークできれば私はスモール・ハピネスを味わう。
ミナトも、先ほどの私と同じように、ギバーとして、ギブの過程と結果からスモール・ハピネスを味わえる。私にとっては、ミナトがギバーとしてスモール・ハピネスを味わったこと自体もうれしい。特に、ギブとテークが絶妙なバランスで成立すると、人間関係に潤いがでてきて、スモール・ハピネスの甘い匂いが香ってくる。
本来、人間関係で「つながり」が成立すれば、スモール・ハピネス条件(2)の「やった!」というポジティブな感覚は生まれやすいものだ。社会脳という言葉もあるくらいで、人間は人との関係に生来敏感だからだ。しかし、人間関係にあまりに慣れっこになった私のような現代人は、この感覚が鈍っていてせっかくつながっても、「やった!」感やスモール・ハピネスを感じにくくなっていたようだ。
ところが幸いなことに、最近巣籠り生活を経たせいで、私はミナトと久しぶりにリアルに会ったとき、「やった!感」をミナトの笑みとともに取り戻せた。それだけではない。巣籠が明けた後、人間関係はリアルとリモートの併用時代にはいったので、併用スキルを磨けば、スモール・ハピネスを味わう機会増大の可能性がでてきた。
例えば、まずリアルで関係を作ってつながるときに、スモール・ハピネスをゲットする。後日リモートで改めて関係をつなぐ際にもスモール・ハピネスを味わう。あるいは、最初の出会いがリモートでそのときスモール・ハピネスを味わい、後日リアルに会ってまたスモール・ハピネスを味わうという逆順にもできる。
スモール・ハピネスは随所に潜んでいるのだが、併用時代になって生息空間がさらに広がりそうだ。例えば、リモートの場合は、回線の状態やPC、スマホの状態などでうまくつながらないこともあるだろう。だがそのおかげで、うまく回線がつながって「会う」ことができればそれだけで、スモールな「やった!感」が生まれる。
さらに、リモートの場合、広範囲の参加者が加わる自由度が高まり、つながる相手が増大して、スモール・ハピネスを生み出す機会も増えるかもしれない。おまけにリモートなら参加者全員、それぞれの居場所の近くの公園や森など環境のよいところを歩きながら会話に参加するなど粋なアレンジも可能で、そこでまたちょっとしたスモール・ハピネスを味わえるだろう。
そうはいっても、リアルに会ってはじめて可能となるナマで立体的な感覚は、リモートでは味わえない。だからこそ、リモート関係を挟むことで、対比的に、リアルが本来的に持つ良さや深さへの味わいが際立ち、、リモートとリアルを織り重ねることで、新しいスモール・ハピネス空間が目の前に拡がってくる。
ポイント1、2をクリアするような人間関係であれば、毎回スモール・ハピネスが味わえるはずだ。次の一手は関係づくりの回数、量を増やして、スモール・ハピネスの機会を増やすことだ。
量をねらうには2つの作戦がある。
1つ目は、多くの相手に、スモールなギフトをタイムリーにくり出す「スモール・ギフト」作戦だ。差し出すギフトは安いモノや、自分が手軽に提供できるサービス・スキルで、量をこなせるものがよい。
重要なのは相手の個々のニーズや好みに合わせることだ。「(い)情勢(相手の状況)解読」と「(ろ)需要把握」を素早く行うとよい(これは前回ふれたパフォーマンス能力を高める練習にもなるから一石二鳥だ)。
スモール・ギフト作戦を続けるうちに、数人、数十人に「共通してうける」ギフトやスキルなど自分の得意技が分かってくるかもしれない。そうなればしめたものだ。
2つ目は、すなわち、人気者になる「スター作戦」に切り替えるチャンスをうかがう。ここでいうスターとは、万人受けする何かを持っている人で、万人受けするモノやサービスやスキルを提供できる人はスターになり得る。フォロアーがたくさんいるソーシャル・ネット・ワーカーはその一例である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授