幸福を決めるのは「強度」ではなく「頻度」リモートワーク時代の理想的な職場の仲間との関係性(2/2 ページ)

» 2021年05月19日 07時09分 公開
[相原孝夫ITmedia]
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 しかし、中にはこうしたことに精通している人がいる。例えば褒め上手なリーダーや駄じゃれ好きなリーダーなどだ。彼らは褒めたり、感謝したり、ジョークを言ったり、何かと有効なマイクロムーブを数多く繰り出す。柔道で言うところの、「一本」でも「技あり」でもなく、「有効」となるような小さなアドバンテージを積み重ねるのだ。柔道においては、「有効」をいくつ積み重ねても「一本」にはならないが、職場においては「有効」の積み重ねは「一本」以上の意味があるのだ。

 そうした意味では、職場のムードメーカーなどは大変ありがたい存在だ。しかし、ムードメーカーは、日頃それほど重んじられる存在ではないかもしれない。少なくとも高い業績を上げているハイパフォーマーほどは重要な存在とは認められていないであろう。しかし、実際のところ、ハイパフォーマーが1人いなくなることよりも、ムードメーカーが1人いなくなることの痛手の方がはるかに大きい。なぜなら、ハイパフォーマー1人がいなくなっても、その分の業績が減るだけだが、ムードメーカーがいなくなれば、チーム力そのものが大きく削がれる可能性があるからだ。ムードメーカーは、メンバー間の距離を縮めてくれており、協力を促し、生産性を高めていることは研究の結果からも示されている。職場に必要なのは、ハイパフォーマーよりも、ムードメーカーなのだ。

職場で「親友」をつくることのメリットは絶大

 職場において、幸福感を高める手だてについて、最後にもう1点、少し観点の違う点について述べたい。職場で親友をつくることのメリットについてだ。これは、声掛けや笑うこととは違い、日常的に連続的に起こすような行為ではないが、幸福感ということに関し、より根幹部分に関わり、より持続性の高い対策となり得るものだ。

 職場での同僚との人間関係が良好な方がエンゲージメントの観点からも、パフォーマンスの観点からもよく、もっと言えば、日々の自身のモチベーションの観点からもいいわけだが、同僚全てと濃密で良好な関係を築くことは現実的ではない。相性が合う、合わないは誰しも普通にあることだ。同僚皆と何でも言い合えるような強固な関係を築こうと思えば、かえって自分を出すことができず、疲弊してしまうことになるかもしれない。しかし、1人か2人の同僚とそのような関係を築くことは難しくはないだろう。

 「親友」と呼べる関係の同僚がいるかいないかは、精神面、健康面において極めて大きいな違いを生む。職場に「親友」がいる人は、そうでない人よりも幸福かつ健康であるばかりか、意欲的に仕事に取り組んでいる可能性が7倍高いということが分かっている。さらに、職場に友人がいると答えた人は、生産性が高く、離職率が低く、仕事への満足度も高い。社会的なつながりを持つことで得られる健康や幸福感は、友人の数の多さより、そのつながりの深さに根差しているのだ。

 「VERY HAPPY PEOPLE」というタイトルの有名な研究論文がある。単にHAPPYな人ではなく、VERY HAPPYな人たちの特徴を見いだしたのだが、それらの人たちに唯一共通していたのは、所得が高いとか、高学歴だとかではなく、「いい友達」がいるということだった。

 以上、仕事面についても成功を左右するほどの大きな影響を及ぼす幸福感について、どのようにすれば高めることができるのかについて述べてきた。いずれも、誰もができることであり、費用の掛かるようなことでもない。これらは、自分自身を助けることであると共に、周囲の仲間や職場全体にも好影響を及ぼす。心持ちをほんの少し変え、手近な小さなアクションを起こすことから始めてみることで、周囲も少しずつ変わっていくことが実感できるに違いない。

著者プロフィール:相原孝夫(あいはら たかお)

人事・組織コンサルタント、作家、HRアドバンテージ 代表取締役社長

マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現マーサージャパン) 代表取締役副社長を経て、2006年4月に当社設立し代表に就任。

慶應義塾大学商学部卒業、早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。

1965年生まれ、栃木県宇都宮市出身。1994年にマーサー社に入社以降、コンピテンシーに基づく人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わるプロジェクト、グローバル人材マネジメント、M&A後の人事・組織の融合等のコンサルティングに従事。

HRアドバンテージでは、人材・組織・仕事の可視化を軸にした、人材力・組織力の向上支援に力を注ぐ。旧労働省大臣官房政策調査部研究会委員、総務省研究会委員、日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。

著書に、『バブル入社組の憂鬱』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『会社人生は「評判」で決まる』『コンピテンシー活用の実際』(以上、日本経済新聞出版社)、『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか 』(幻冬舎)、『図解戦略人材マネジメント』(東洋経済新報社)ほか多数。

日経ビジネススクール、経営アカデミー(日本生産性本部)、早稲田大学ビジネススクール他での講義、講演、セミナーのほか、新聞、専門誌への寄稿、コメント多数。

主な著書に『会社人生は「評判」で決まる』(日本経済新聞出版社)、『ハイパフォーマー 彼らの法則』(日本経済新聞出版社)『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎新書)など多数。


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