「伝える技術」と「伝わる技術」。1文字しか違わないが、意味は大きく異なる。伝える技術は自分ベースであり、伝わる技術は相手ベースである。伝わるためには、伝わるための構造やテクニック、技術をインプットして、それをアウトプットしていくことが必要になる。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、アスコム取締役編集局長の柿内尚文氏が登場。著書『パン屋ではおにぎりを売れ』に次ぐ2作目の著書である『バナナの魅力を100文字で伝えてください』の内容に基づいて、「企画した本1000万部超のベストセラー編集者が教える、一生役立つ“伝わる”技術」をテーマに講演した。
伝わる技術は、日常のコミュニケーションでも使えるが、自社の商品やサービスが、なかなかユーザーに届かない、なかなか売れないときにも役立つ。いい商品、いいサービスでも、相手に伝わらなければ、存在していないのと同じ。ちゃんと伝わることにより、お客さまの役に立つことができる。
問題(1)
ある人気の八百屋さん。このお店では普通はあまり伝えていない“あること”をお客さんに伝えているそうです。“あること”とはいったい何でしょうか。
答え
“今日おすすめしない野菜や果物”を正直にお客さんに伝える正直青果店です。
これは実在する青果店の話で、地元にしっかりと根づいている。実は、この答えに伝わる方法が2つ隠されており、1つは、ダメなものを伝えることでよいものが引き立つ「比較の法則」であり、もう1つはダメなことを正直に伝えることで生まれる「信頼感」だ。
例えば比較の法則で、(A)このバナナおいしいよ!と、(B)今日のイチゴはいまいちだけど、このバナナはおいしいよ!では、(B)のバナナの方がおいしそうに感じる。伝わるためには、伝わる技術と伝わる構造をインプットして、それをアウトプットすることが必要になる。
伝わらないと、以下のような多くのデメリットがある。
・部下に何度も同じことをいわないといけない。
・ミスや行違いが多発する。
・商品やサービスがなかなか売れない。
・ストレスがたまる。
一方、伝わる技術によるメリットは、以下の通り。
・部下や上司、仕事相手に伝えたいことが「伝わりやすくなる」。
・商品やサービスのマーケティング、プロモーションに活用できる。
・営業相手に商品やサービスを魅力的に伝えられる。
・仕事だけでなく家庭やプライベートなど、さまざまな人間関係がよくなる。
もう1つ、伝わるためには、量(伝える不足)と質(伝える下手)の問題もある。
質(伝える下手)の問題は、伝わる技術や伝わる構造で解決できるが、量(伝える不足)は別の問題。この問題を解決するのが、ザイアンスの法則である。ザイアンスの法則は、人や物やサービスなどに何度も触れることで警戒心が薄れ、関心や好意を持ちやすくなるという心理的な効果である。
「ザイアンスの法則は、米国の心理学者ロバート・ザイアンス氏によって提唱され、“単純接触効果”とも呼ばれます。人と会う時間よりも、会う回数を増やすほうが大切です。逆効果もあるので、マイナスの感情を抱かせると、どんどんネガティブな感情が強まるので“伝える技術=質”が大切になります」(柿内氏)
「伝わる構造は、1階:ゴール設定、2階:納得感、3階:相手ベース、4階:見える化、5階:聞く力、6階:親近感、7階:信頼感の7階建てです。7つ全部必要ということではなく、うまく組み合わせることで伝わる強度が高まります」と柿内氏は言う。
・1階:ゴール設定
何のために伝わる必要があるのかをハッキリさせる。例えば、部下に「部下の成長」というゴールを伝えたいのに、ゴール設定があいまいだと、相手が誤解して、「ただ怒っているだけ」「マウントを取りにきた」などと伝わることもある。
・2階:納得感
ただ伝えただけではなく、納得する、理解を得る、腑に落ちるが大切。特にZ世代は「納得解」を大切にする傾向がある。
・3階:相手ベース
「伝える」は自分ベースで、「伝わる」は相手ベースである。この原則が忘れられていることがある。単に伝えればいいのではなく、伝わっていることが重要になる。
上司 「この件、ちゃんと相手に伝えた?」
部下 「ちゃんと伝えました。でもよく分からないっていわれました」
上司 「それじゃあ、伝わってないじゃないか」
部下 「でも伝えました!」
「伝える」と「伝わる」の混同には注意が必要になる。
・4階:見える化
相手の頭の中にイメージ、映像が浮かぶことが必要。言葉で説明するのではなく、言葉で絵を描くイメージで伝える。上手な落語家は、話を聞いただけで頭の中に絵が浮かぶ。こうした話し方ができればベストだが、意識して伝えることが重要になる。グルメレポートも同じで、うまいグルメレポートは、視覚×味覚×嗅覚×聴覚×触覚を使って料理を見える化している。
・5階:聞く力
「伝える」は自分ペース、「伝わる」は相手ベースである。自分の話ばかりする人の話は伝わりにくく、相手に興味を持つこと、相手の話を聞くことが必要になる。優秀な営業パーソンなど、仕事ができる人は実は聞き上手である。「伝わる構造」により、親近感、信頼感、相手ベースにつながる。
・6階:親近感
「親近感のある人」の話には耳を傾けやすく、「嫌いな人」の話は正しくても否定したくなる。親近感を生むコツは、相手に興味を持つ、相手に喜んでもらう、相手と共通項をみつける、自分のダメを明かす、笑顔である。
・7階:信頼感
同じことでも信頼がある人とない人では伝わり方がまったく違う。信頼感を生む行動は、自分側は「誠実さ・素直さ」「スキル・能力」「結果・成果」「接触頻度」「モラル」で、相手側は「関心」「意義・価値・動機」である。
柿内氏は、「もし伝わらないと感じたら、この7つのどれが足りないのかを考えてみるとよいと思います」と話している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授