第3回 「ブランド」は来期以降に持ち越せる簿外資産「売上の地図」に学ぶ、売上づくりの極意(1/2 ページ)

企業のエグゼクティブの中には、自社のブランドに強い想いを抱く人も多いだろう。そこで、今回は「売上の地図」からブランドと売上の関係について解説する。

» 2022年09月07日 07時08分 公開
[池田紀行ITmedia]

 企業のエグゼクティブである読者層(管理職・ミドル層)の中には、自社のブランドに強い想いを抱く人も多いだろう。そこで、今回は「売上の地図」からブランドと売上の関係について解説する。

売上の地図

ブランドを形成する「識別記号」と「知覚価値」

『売上の地図』

 ブランドは下駄(げた)のようなものだ。同じ商品スペック、同じ価格、同じ売場で販売されていたとしても、ブランド力が高ければ競合商品に勝つことができる。仮に競合商品よりスペックがやや低く、値段も少々高く、目立ちにくい棚で売られていたとしても、ブランド力が高ければ買ってもらえる可能性を高めることができるのだ。競合が同額の広告宣伝費、マーケティング費用をかけても、あなたが担当する商品のブランド力が高ければ、競争力は強く、売上は安定するのである。

 よく行くコンビニの店頭を思い出してほしい。もし、売り場に並んでいる全商品にパッケージ(ラベル)が付いていなかったら、いつも通り買い物ができるだろうか。緑茶が入っているペットボトル飲料、無地の箱に入ったチョコレート菓子……。全て同じに見えて選べなくなるはずだ。

 では、ペットボトルや缶、箱や袋にスペックや機能的なベネフィットの特徴が書かれたシールが貼られていたらどうだろう。ペットボトル入りのお茶なら「まろやか」「ほどよい苦味」「本格的な味」、チョコレートなら「カカオ2倍」「マイルド」「ビター」といった具合である。多少は選びやすくなるだろうが、それでも買い物は難航するはずだ。

 つまりブランドとは、消費者が数ある選択肢の中で商品・サービスを「識別」する役割と、商品・サービスが自分に提供してくれるベネフィットを瞬時に伝える役割を持っているのである。

図1:識別記号と知覚価値

 ブランドは「識別記号」と「知覚価値」によってつくられる(図1)。識別記号とは、消費者が自社の商品と競合他社の商品の違いを記憶し、識別するための記号だ。ロゴマークの他、文字、音声、形、色、においなど五感で感じるものの全てを指す。ファミリーマートの入店音やPayPayの決済音、黄色地と赤文字で構成されるデニーズの看板、コカ・コーラの腰がくびれた瓶などは消費者のブランド識別を助けている。そして瓶の形やロゴなどからコカ・コーラを識別すると、「シュワッとスッキリ爽やか」といった知覚価値を呼び起こす。

 スターバックスコーヒーも、グリーン地に人魚をモチーフにした識別記号としてのロゴを多くの人が知っていて、その記号がコーヒーの味わいやスタバ流の接客、快適な店内空間などの知覚価値を想起させるところに強さがある。識別記号と知覚価値が結び付くことで、私たちはその商品が自分にどんな価値をもたらしてくれるかを判断できるのだ。

ブランドとは資源であり資産であり資本である

 「ブランディングをすれば売れるのか?」という質問は、ブランドを手段と捉えている。「いくら使って、どのくらい売れたの?」という単年度のP/L(損益計算書)思考である。アップルのりんごやスターバックスの人魚ロゴといった識別記号が想起させる知覚価値が示す通り、ブランドは決して単年度の利益創出効率を高めるだけの手段ではない。ブランドは資源であり、資産であり、資本なのだ。

 「日立の樹」のCMは大半の人が知っているだろう。1973年に制作されて以来、9代ものバージョンがある。公式サイト「日立の樹オンライン」によると、日立の樹は、日立グループの総合力と成長性、事業の幅広さ、力強さを「大地に根を伸ばし、大きな枝を広げ、色とりどりの花を咲かせて実を結ぶ1本の大樹」に例えたものだそうだ。私は小学生くらいからこのCMを見続けてきた。その結果、同社に対して、大きい、優しい、親しみがある、頼りがいがある、実直、真面目などのイメージを持っている。同様のイメージを持つ人、も多いだろう。

 その効果は、消費者に対するコーポレートブランディングだけでなく、グループ企業全体のBtoB営業支援や、外部の部品メーカーなどを含むサプライチェーン全体への認知や信頼性向上、採用支援、IR、グループ従業員の帰属意識や仕事意欲の醸成など、さまざまなものがあるだろう。そして数十年間にわたって統一のイメージを刷り込んできた効果は、たとえこのCMを視聴しなくなって数十年が経過しても、多くの人の記憶に残り続ける。日立の樹は、「投資的施策」の代表例といえるだろう。

「ネット広告」はP/L的、「ブランディング」はB/S的

 マーケティングコミュニケーションには「今期の利益を最大にするための費用的施策」と、「今期も含め、来期以降の利益を創出する投資的施策」の2つがある。にもかかわらず、多くの現場ではまるで「全ての施策の効果は今期中に回収しなければならない(回収できるはずだ)」と言わんばかりの不文律があるように感じる。

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