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» 2023年04月11日 07時02分 公開

エレベータービジネスの未来像(1/2 ページ)

「ハードを低利益で販売し保守で高利益を稼ぎ出す」といったエレベータービジネスの過去の“定石”はもはや通用しなくなってきている。未来のエレベータービジネスを方向づけるトレンドとして、近い将来「3つの大変化」が起こると予測している。

Roland Berger

従来型勝ちパターン崩壊のおそれ

 これまでのエレベータービジネスは、ハードは低利益(場合によっては赤字)で販売して、保守で高利益を稼ぎ出す、複合機に近い収益構造の代表格であった。しかし、この盤石と思われてきたビジネスモデルが音を立てて崩れつつある。

 世界的に大手エレベーターメーカーは、中国製を始めとした安価かつ一定の性能水準を有する製品の台頭により、その地位が脅かされている。新設・交換時の安値攻勢に追随できず、ストック台数の積み上げが出来なければ、将来収益獲得に資する種まきが十分に行えなくなる。更に、市場成長をけん引する地域が、価格競争厳しいインド・東南アジアなどの新興国へと移り変わりつつあることも悩ましい課題に拍車を掛けている。

 「既存ストックからの利益回収」についても、安価な独立系の保守専門業者の台頭や、高度な技術・修理に対応可能な熟練工の不足が、大きな課題になりつつある。

 守り一辺倒ではなく、攻めに転じる上で、Smart Building領域に拡張して事業機会を探ろうとする動きも散見される。その場合、IT/OTに強みを持つ各種テクノロジープロバイダー、空調他周辺のビル関連設備事業者、建設事業者など、競合が多岐にわたる中で、いかにエレベーター事業者としての独自価値を発揮できるかは難題だ。

 日本市場に目を転じると、三菱電機・日立・東芝・フジテック・日本オーチスの5強が市場を寡占しており、無風状態に近い。世界的には4強とされているが、日本市場でわずかながらプレゼンスがあるのはOTIS(オーチス)のみで、KONE(コネ)、TKE(ティッセンクルップ・エレベーター)、Schindler(シンドラー)はいずれも日本市場は撤退・未参入状態にある。ガラパゴス化されている国内市場に安住してしまっては、気づいた時は手遅れになり兼ねない。

未来を見据えた新たな価値提供

 弊社ローランド・ベルガーは、グローバルのエレベーター事業者との議論や他業界のアナロジーも踏まえ、エレベータービジネスにおいて近い将来「3つの大変化」が起こると予測している。これら3つの変化をいかに先取りし、ビジネスモデル・オペレーティングモデルの変革をリードできるかが、将来のエレベータービジネスの勝者を決定づけると確信している。

図表1: ローランド・ベルガーが考えるエレベーターの未来

変化1:設計見積から納品までのゼロ時間化

 設計・調達の工夫によるコスト削減(BOM: Bill of Materialsコスト削減)と並び、注文〜据付迄のリードタイムをいかに最適化できるかは、エレベーター事業の収益性を大きく左右する。デジタル技術革新も相まって、近い将来、それを限りなく「ゼロ時間化」させることも可能となると大胆に予測する。

図表2: 「設計見積から納品までのゼロ時間化」のイメージ

 既に機械部品の分野では、ミスミがデジタル調達部品サービス「meviy」(メビー)を通じて、見積から出荷まで最短1日を実現しているが、同様の兆候がエレベーター業界でも見え始めている。

 例えばデザイン・設計工程では、営業支援プラットフォームを手掛けるZXTechが、顧客にスマートフォンアプリを提供し、仕様に応じたエレベーター種類・装飾を顧客自ら選択できるようにした。結果、デザインを15分で完成させて、工場に直接オーダーを送信する仕組みを構築し、圧倒的な納期短縮を実現している。

 また、設計支援シミュレーションソフト“AdSimulo”は、建物のテナントタイプ・フロア数・建物内人口を設定することで、最適なエレベーター構成を導出可能とした。さらに、ゲーム感覚で、待機時間別に色分けされた建物内の乗客やエレベーターの動きを観察しながら、微調整を行うこともできる。そのような設計完了後に、BIM IFC形式でデータダウンロードし、建物全体のBIMに反映することで、設計業務の効率化を図れる。

 据付工程でも、Schindlerの“R.I.S.E”に代表される完全自動化で据付を行う技術や、ドローンによる据付・仕上げ・検査を行う事例が次々と発現してきている。現状、据付工程には、シャフトの幾何学的測定・現場工程証明チェックリストなどのさまざまな検査活動に高度な手作業と貴重な時間が投下されている。それをドローンを活用し、シャフトを遠隔で調査し測定値を電子的に記録することで、最大21〜26%の時間短縮と、6〜11%のコスト削減を期待可能だ。

 これらの技術・取り組みは日進月歩で進みつつあり、設計から据付までの時間が極限まで短くなる未来は想像に難くない。

変化2:エレベーター稼働・保守のスタンドアローン化

 エレベーター据付後の稼働段階でも、極限まで人間による操作・管理の手間を排除し、「最適な動き方」をエレベーターが自動判断・自律動作する時代が近づきつつある。

図表3: 「エレベーター稼働・保守のスタンドアローン化」のイメージ

 もうけ頭の保守領域では、技術スタッフの人員不足が世界共通の課題となっている。IoT化による機器状態の常時監視により、トラブル・保証を予知しながら、配員を効率化する取り組みはこれまでも行われてきたが、足元では、AR(拡張現実)技術を用いた非熟練スタッフの戦力化が進みつつある。非熟練スタッフが対応可能な修繕・メンテの範囲が広がれば、おのずと熟練スタッフはより高度な作業に集中できるようになり、保守ビジネス全体の生産性向上につながる。また、熟練スタッフであっても、マニュアルを見ながら作業するよりも、ガイドを得られれば、個別の作業を迅速化することが可能だ。

 Microsoftが提供するMR(Mixed Reality; 複合現実)デバイス“HoloLens”をThyssenKrupp(ティッセンクルップ)の保守技術者が活用することで、従来2時間程度掛かっていた業務を20分程度に短縮するといった事例も現れ始めている。

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