第2回『超訳ドラッカーの言葉』取締役編 取締役の仕事は1人でこなすことは不可能であり、他の取締役と力を合わせて成り立つ仕事ドラッカーが教える「成功に必要なもの」(2/2 ページ)

» 2023年07月26日 07時05分 公開
[山下淳一郎ITmedia]
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トップマネジメント6つの仕事

 どんな業種であっても会社である以上、そこには経営という仕事が必ずある。取締役の仕事は会社全体の運営をつかさどるもので、営業部や管理部といった部門の仕事はまったく違う。取締役の仕事が6つある。

1、使命を決める仕事

 会社は人の集まりだ。だから、「何のための仕事なのか」が必要だ。それが使命である。使命とは、「わが社は事業を通じて社会にどんな貢献をすればいいか社員全員が分かるもの」だ。取締役は会社の責任者として、会社の使命を明らかにしなければならない。

2、価値観をつくる仕事

 取締役は、働く人たちが、こういう場合はこういうふうにして考えるのだということを決めなければならない。そうしなければ組織は混乱し、成果は上がらなくなるからだ。

3、組織をつくる仕事

 組織の実態は“人間”だ。物事を積み上げ、情報を知恵に変え、組織を形成する土台は人間だ。組織の中心は、人間の精神性だ。したがって、会社の精神をつくり上げていかなければならない。

4、良い関係をつくる仕事

 会社は、さまざまな協力者がいて成り立っている。例えば、お客様、提携先、協力会社、取引先、株主、投資家、銀行、地域などだ。取締役は会社の代表者として、事業に影響を与える存在と良い関係をつくらなければならない。

5、外と関わる仕事

 会社の規模に関わらず、取締役はイベントごとや会食、業界の集まりに出席し

なければならない。必要なときに必要な場に出向かなければ、会社の信頼を失うことにもなりかねない。外と関わる仕事は取締役の避けて通れない社会的な仕事だ。

6、矢面に立つ仕事

 重大な危機に直面した時や状況の悪化に際して、取締役は事態の収束に取り組まなければならない。対外的なことに限らず、組織内の改革など、勇気ある決断をしなければならない。

取締役の仕事は個人プレーではない

 取締役の仕事は前記した通り、多岐にわたる。取締役に必要なさまざまな体質を、1人で併せもつことはできるのだろうか。しかも、それら多くの仕事を1人でこなせるのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

トップマネジメントの仕事とは、1人の仕事ではなく、チームによる仕事である。トップマネジメントの役割が要求するさまざまな体質を、1人で併せもつことはほとんど不可能である。しかも、1人ではこなしきれない量がある。

ピーター・ドラッカー『マネジメント』

 トップマネジメントという言葉は、「経営」「経営者」「経営者の仕事」「組織の最上層部」を指す総称として使われている。取締役の仕事は、1人でこなすことは不可能であり、他の取締役と力を合わせて成り立つ仕事だ。野球に例えるならば、ピッチャーとキャッチャーに必要な能力を身に付けたからとって、ピッチャーとキャッチャーの仕事を同時に行うことはできない。試合はピッチャーとキャッチャー、2人同時に必要だ。取締役の仕事もそれと同じだ。たとえ多くの能力を身に付けたとしても、取締役の仕事は1人でこなすことはできない仕事なのだ。

この会社をどうよくしていくか

 最後に、取締役が責任を果たすために、来週にも起こせる具体的な行動を提案したい。

 ドラッカーはこう言っている。

「自分の仕事をどう進めるかを考えるときの頭」と

「この会社をどう良くしていくかを考えるときの頭」はまったく違います。

取締役が「自分の仕事をどう良く進めるか」だけしか考えなければ、

「この会社をどう良くしていくか」については誰が考えるのでしょうか。

「自分の仕事をどう良く進めるかを考える」のは社員、

「この会社をどう良くしていくかを考える」のが取締役です。

取締役の責任を遂行するために、週に1回、

社長を中心に「この会社をどう良くしていくか」について

話し合う場をもちましょう。

超訳 ドラッカーの言葉

 以上、知識や方法論ではなく責任という観点で話をした。次回の第3回は、部課長の責任についてお伝えする。


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12月13日(水)18:30〜19:30 第2回上司が果たすべき2つの責任

3月13日(水)18:30〜19:30 第3回上司が継続すべき2つのこと

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著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント

ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント

東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。 

著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。


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