多くの会社は役職は明確だが、「責任」の内容は曖昧だ。この連載では会社組織における「責任」を、それぞれの立場で考えてみる。
第2回『超訳ドラッカーの言葉』取締役編 取締役の仕事は1人でこなすことは不可能であり、他の取締役と力を合わせて成り立つ仕事
第3回『超訳ドラッカーの言葉』部課長編 部長は部門の責任者として経営陣の一角を担い、課長は現場の責任者として業務の遂行の責任を担う
第4回『超訳ドラッカーの言葉』 強み編 成果をあげるために自分の強みを知らなければならない。それは理想の話ではなく厳しい現実である。強みを生かすことは責任である。
第5回『超訳ドラッカーの言葉』 マネジメント編 企業は生き物のように生きることを目的とすることはできない。企業の目的は社会の役に立つことである。
こんにちは。山下淳一郎です。私は、いろいろな企業様の経営チームに「一枚岩の経営チームをつくる実践プログラム」を提供している1人のビジネスパーソンだ。ビジネスパーソンとして、成功に必要なものは何か。ドラッカーはこう言っている。
成功に必要なものは責任である。あらゆることがそこから始まる。
大事なことは肩書ではなく責任である。
ピーター・ドラッカー『非営利組織の経営』
肩書とは役職のことだ。大事なのは、役職ではなく責任だ。ところが、多くの会社は役職は明確だが、「責任」の内容は曖昧だ。会社組織における「責任」は、社長、取締役、部長、課長、一般社員等々、階層によって、部門によって違う。そして、上司部下という立場によって大きく異なる。「責任」とは、「誰かに負わされるもの」ではなく「自ら負うもの」である。それは、果たすべき役目を最後までやり遂げようとする揺るぎない意志のことだ。
私たらは評価の世界で生き、評価の世界で仕事をしている。日々、上からどう評価されるかに焦点を合わせて仕事をしている。それが現実である。時として、誰でも他者の物差しで自分を計ってしまうことがあるはずだ。その結果、本来の自分より自分を小さく見てしまう。時には、理不尽な壁に直面し、誇りと自信を失うことさえある。しかし、多くのビジネスパーソンが誇りと自信に満ちあふれたありのままの自分で仕事に挑み、より大きな自分に成長していくことを望んでいるはずだ。それは、評価に焦点を合わせるのではなく、責任に焦点を合わせて仕事をするということだ。自分を他者の評価に焦点を合わせるのではなく、責任に焦点を合わせると、何が変わるのか。ドラッカーはこう言っている。
責任に焦点を合わせるとき、人は自らについてより大きな見方をするようになる。
うぬぼれやプライドではない。誇りと自信である。一度身につけてしまえば
失うことのない何かである。目指すべきは、外なる成長であり、内なる成長である。
ピーター・ドラッカー『非営利組織の経営』
責任に焦点を合わせて、日々、外なる成長、内なる成長を目指す自身でありたい。「評価に振り回される組織人」ではなく、「責任を貫く仕事人」でありたい。『ビジョナリー・カンパニー』で有名な、あのジム・コリンズは次のように言っている。「この世にあって何がしかの責任を担う者であるならば、ドラッカーとは、いま読むべきものである。明日読むべきものである。10年後、50年後、100年後にも読むべきものである。」
今このページを読んでいるあなたは「この世にあって何がしかの責任を担う者」だ。一方、人それぞれ会社が違い、所属している部署が違い、行っている仕事が違う。また、人それぞれ就いている役職が違い、おかれている立場が違い、担っている責任がまったく違う。この連載では、就いている役職、おかれている立場によって、果たさなければならない責任を明らかにしていく。第1回は経営トップの責任、第2回は取締役の責任、第3回は部課長の責任、第4回は上司の責任、いった4つの観点から、「成果をあげるために何をすべきか」をお伝えする。
第1回のテーマは、前述した通り、経営トップの責任についてだ。経営トップの責任とは何だろうか。人は就職すると必ずどこかの部署に配属される。その部署で成功や失敗を重ね、経験を積んで力をつけていく。何年かたち、技術者は技術部の課長へ、経理の担当者は経理部の課長に昇進していく。やがて経営幹部に昇格する。昨日まで部長だった人が、ある日突然、経営者の一員として、会社全体の視野に立って仕事に当たらなければならなくなる。今までやってきた仕事の勝手がガラリと変わる。このように、経営者の仕事は、「一つの歯車となって回ること」から「全ての歯車を回すこと」に変わる。
経営トップの仕事はあまりに広い。今回は事業という側面に絞り込んで経営トップの仕事について考察したい。漠然とした内容にならないために、実際にあったことをお伝えする。米国の自動車メーカーであるGM(ゼネラルモーターズ社)でこんなことがあった。GMは、アルフレッド・プリチャード・スローン・ジュニアという人によって、世界最大級の製造企業へと発展した。その彼が引退した。後任のトップに就任したのは、事業部長時代に一番売りにくい高級車を全米3位にする実績をつくった優秀な人間だった。ところが、その彼が社長になった途端に、会社は窮地に陥った。事業部長時代に大きな実績を上げたその彼が、会社を絶体絶命の窮地に追い込んでしまったのだ。いったいどうしてか。後任のトップは、社長に就任以来、「経営をどうするか」ということについては考えず、「車をどう売るか」しか考えなかった。社長になってもなお営業マンとしての考えしか持たず、営業マンとしての仕事しかしなかった。優れた人間がなぜ優れた経営を行うことができなかったのか。トップ本来の仕事はいったい何なのか。ドラッカーはこう言っている。
トップは日々多忙です。成り行きに任せていては、
日々の仕事は問題の解決に引きずり込まれます。
トップ本来の仕事は、「問題を解決すること」ではなく、
「未来を創り出すこと」です。
やがて来る危機に向けた準備をしておかなければなりません。
それは経営トップにしかできません、
超訳 ドラッカーの言葉
彼は事業部長時代にやってきた仕事を経営者になってもそのまま続けた。事業部長から経営者になることによって、仕事の勝手が変わることを受け入れなかった。経営トップが売上だけを追いかけ、明確な将来像を描かなければ経営は必ず失敗する。トップが価値あるビジョンを示せば、働く人は力を発揮してくれる。しかし、ビジョンの欠如は働く人の士気を破壊する。世界最大級の製造企業が、なぜGMは事業の挫折を招いてしまったのか。ドラッカーはこう言っている。
事業の挫折は、今の考え方、今やっていること、
今のやり方が、変化によって、今の現実にそぐわなくなったことの表れです。
事業が低迷する前に、今の考え方、今やっていること、
今のやり方を変えていきましょう。
超訳 ドラッカーの言葉
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授