成長する企業には使命があり、使命を共有した組織は事業を発展させ、社会に繁栄をもたらす。そこには必ずマネジメントがある。
第2回『超訳ドラッカーの言葉』取締役編 取締役の仕事は1人でこなすことは不可能であり、他の取締役と力を合わせて成り立つ仕事
第3回『超訳ドラッカーの言葉』部課長編 部長は部門の責任者として経営陣の一角を担い、課長は現場の責任者として業務の遂行の責任を担う
第4回『超訳ドラッカーの言葉』 強み編 成果をあげるために自分の強みを知らなければならない。それは理想の話ではなく厳しい現実である。強みを生かすことは責任である。
こんにちは。山下です。前回、第4回『超訳ドラッカーの言葉』強み編では、強みを生かす必要性と成果をあげる人とあげない人の違いについて伝えた。今回のテーマはマネジメントについてだ。この連載では、マネジメントを「管理ではなく、組織で成果を上げるための機能」という定義に基づいて内容をお伝えする。
昨今、売上をあげさえすれば手段を選ばない不祥事が後を絶たない。怒りを通り越してあきれるばかりだ。脅迫で人を動かし不正を行う組織は、もはや反社と言っていいだろう。企業の良し悪しは、経営者の頭の良し悪しで決まらない。人格の良し悪しで決まる。マネジメントの父ドラッカーは、経営者が果たさなければならない役割は3つあるという。それは次の通りだ。
病院は患者さんの病気を治すために存在している。飲食店はお客様においしいものを提供するために存在している。あらゆる組織が何らかの価値を社会にもたらすために存在している。企業は生きていくために売上は必要だ。しかし、売上を上げるために存在しているのではない。企業はそれぞれの使命を果すために存在しているのだ。その使命を忘れて売上が全てとする企業が繁栄するはずがない。
働く人は生活のために働いている。だからといって、お金が全てかというとけっしてそうではない。働く人にとって職場は社会との関わりをもつ大事な場所であり、他者との心の交流の場である。働く人は仕事を通じてお客様のお役に立てている喜びを得たいと思っている。企業は働く一人ひとりを生かさなければならない。上の機嫌を損ねたら降格だなどという企業があっていいはずがない。
飲食店には食中毒が起こるリスクがある。薬には副作用がある。物を運べば交通事故が起こる。全ての事業が何からの悪影響を生む可能性を抱えている。企業はそのような悪影響をゼロにしなければならない。それは責任である。不正など論外であろう。
以上が、組織のトップが果たさなければならない3つの役割である。当たり前のことと言えば当たり前のことだ。しかし、悲しいことにそれらは守られていない。
1941年12月、人類史上最大の戦争が起こった。第二次世界大戦である。1945年、日本の社会は壊滅した。当時、エネルギーの不足も著しく、燃料不足で300万人の凍死者が出るという警告が出た。当時の日本はそれに対する対策をもつこともさえできなかった。
オムロン(当時立石電機)は、家庭向けに電熱器を作りはじめた。寒さに震え凍える人々に、なんとか暖を提供したいという想いからだった。パナソニック(当時松下電器)は、洗濯機の製造をはじめた。日々の生活に苦しむ主婦に、少しでも楽をしてもらいたいという想いからだった。トヨタは、「日本が復興するのにトラックは重要な道具である。トヨタはそれを供給する責任がある。そのつもりで再出発しよう」と強い意志を表明した。
壊滅した厳しい状況下にあっても、新しい構想に向かって挑んだリーダーがいた。
戦後の焼け野原の中、経営者は事業の再建に奔走した。彼らには社会に貢献するという使命感があった。オムロンは「われわれの働きでわれわれの生活を向上し、よりよい社会をつくる」という標語を名刺に印刷し、自分たちはこんな精神で働いている、ということを内外に示した。創業者立石一真は当時社員にこう言っていた。「企業は利益追求のためのみにあるのではない、社会に奉仕するために存在するのだ。」
社会はいろいろな企業で成り立っている。その企業で働く私たちの仕事の良し悪しが、社会の良し悪しを決定付けていく。ドラッカーはどういったのだろうか。
「売上をあげなければならない」ということと
「売上をあげればいい」ということはまったく違います。
企業は生きていくために売上をあげなければなりませんが、
「売上をあげていればいい」というものではありません。
事業の目的は、喜んでくださるお客様を創り出すことです。
喜んでくださるお客様を一人でも多く創るために
取り組んでいきましょう。
『超訳 ドラッカーの言葉』
意思を持って未来を描き、物事を良い方へ変化させていくことこそマネジメントである。
社会とは、人と人が関わり合いながら生きていく場である。その組織の代表格が企業である。企業の経営者が現代の社会において権力を持つに至った。今日では、経営者の決定が、そこで働く、数十人、数百人、数千人、あるいは、数百万人、数千万人の生活に大きな影響を与える。社長や副社長、または幹部が倫理観を欠く人だったら、その組織で働く人は迷惑だ。上に間違いがある時は下から良識の声が上がり、下に間違いがあれば上から修正の手が入ることが健全な組織と言える。物の道理に上も下もない。健全な組織なくして個人は安心を得られず、個人の尽力なくて組織の発展はあり得ない。道理にかなった運営こそが、健全な組織を成り立たせる。
全ての組織が社会の問題を解決するためにある。あらゆる事業がお客様に喜んでもらうためにある。マネジメントは、お客様に対する想いから始まり、お客様の喜びで終わるものだ。お客様への想いがなければ何も始まらないし、お客様の喜びがなければ何も終わらない。企業が「わが社のために」という考えで事業を進めていけば、組織は狂う。それは、「お客様への貢献」より「上への忠誠」が優先され、社会にとって正しくないことが、組織にとって正しいことになっていくからだ。企業は、「会社のために」ではなく、「社会のために」という考えに軸足を置かなければならない。
ドラッカーはこう言っている。
組織は、それ自身のために存在するのではない。それは手段である。
それぞれが社会的な課題を担う社会のための機関である。
生き物のように、自らの生存そのものを至上の目的とすることはできない。
組織の目的は、社会に対する貢献である。
『マネジメント』
社会に対する使命に基づいて組織が運営され、そこで働く一人ひとりが、想いを合わせて社会に良い影響をもたらすこと。それが“マネジメント”だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授