取締役になった人は、1つの分野で際立った成果を上げた結果、経営陣の一員に昇格した。しかし、「これまで経験を積んできた分野の仕事」と「会社全体をマネジメントする仕事」はまったく違う。どう経営の仕事にあたればいいのだろうか。
第3回『超訳ドラッカーの言葉』部課長編 部長は部門の責任者として経営陣の一角を担い、課長は現場の責任者として業務の遂行の責任を担う
第4回『超訳ドラッカーの言葉』 強み編 成果をあげるために自分の強みを知らなければならない。それは理想の話ではなく厳しい現実である。強みを生かすことは責任である。
第5回『超訳ドラッカーの言葉』 マネジメント編 企業は生き物のように生きることを目的とすることはできない。企業の目的は社会の役に立つことである。
こんにちは。山下です。前回、第1回『超訳ドラッカーの言葉』経営トップ編では、組織に必要な3つのことをお伝えした。今回のテーマは取締役についてだ。この連載では、取締役を「社長以外の役員」と定義して話を進める。
名刺に「取締役」と書いてあっても、経理出身の取締役は毎日エクセルをにらみ、営業出身の取締役は日々客先を走り回っている。なぜ、取締役は取締役として動かないのか。取締役になった人は、1つの分野で際立った成果を上げた結果、経営陣の一員に昇格した人だ。しかし、「これまで経験を積んできた分野の仕事」と「会社全体をマネジメントする仕事」はまったく違う。部長クラスまでは自分の部門で成果を上げていればよかったものが、取締役になると、これまでの仕事の勝手が変わる。仕事の勝手が変わるために、取締役になった人も、どう経営の仕事にあたっていいか分からないのだ。かく言う私がそうだった。
管制塔の仕事とパイロットの仕事はまったく違う。管制塔の仕事とパイロットの仕事を兼任することはできない。同じように、取締役の仕事と部門長の仕事もまったく違う。取締役の仕事と部門長の仕事も兼任することはできない。しかし、多くの取締役は取締役兼○○部長というように、2つの異なる仕事を兼任している。当然必ずどちらか1つは留守になる。また、取締役という肩書きが付くと、「できて当然」とされ教育対象から外される。そして、「分かって当然」とされ、意思の疎通は行われない。その結果、取締役は、社長の意を察することが「取締役の心得」とされ、社長の意を察して動くことが、まるで「取締役の仕事」であるかのようになる。こうして、取締役のエネルギーは、会社の成長より、社長の顔色をうかがうことに向けられていく。いったい取締役の仕事とは何なのか。
ドラッカーはこう言っている。
トップの本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく今日と違う明日をつくり出すことであり、それゆえに、常に後回ししようと思えば、できる仕事である。状況の圧力は常に昨日を優先する。
ピーター・ドラッカー『創造する経営者』
ここで言うトップとは、会社の最上層部のことだ。ところが、多くの取締役は会社の最上層部でありながら、取締役兼○○部長というように、1つの部門の責任者を兼任している。事実、営業の責任者を兼任している取締役は、予算が達成できていなければ、「今日と違う明日をつくり出すなんて悠長なことを言っている場合じゃないぞ!」ということになり、まずは、予算達成を最優先に動く。まさに、「状況の圧力は常に昨日を優先する」だ。
取締役兼開発部長は、開発の進捗が遅れていれば業務の調整に忙殺され、取締役兼管理部長は、広報、経理、労務、法務、IRなど、多種にわたる業務の対応に、日々追われている。取締役兼営業部長は、予算が達成できていなければ目に火花を散らして、予算達成に全力投球することは、さきほどお伝えしたとおりだ。あまりにもやることが多すぎて、取締役としての仕事は置き去りになる。それは、無責任だからではなく、本当に忙しいからだ。
経営会議で話されることといえば、それぞれが担当する部門の状況報告だ。営業部長は売上のこと、開発部長は商品のこと、管理部長は人事や労務に関することだ。「会社をどう良くし変えていくか」という具体的な議論は交わされず、取締役の全員が、「自分は持ち場の仕事をちゃんとやってます」という発表で終わる。それは、経営会議ではなく部門長会議だ。
事業が軌道に乗っていて、収益が安定してさえいれば安泰だ―。つい、そう考えてしまう。しかし現実は、「まさかこの会社が!」と思う大企業が傾いた例は少なくない。なぜ、不動の地位を獲得したかのように見えた最強の企業が、力を失ってしまったのか。ドラッカーはこう言っている。
今日最強の企業といえども、未来に対する働きかけを行っていなければ苦境に陥る。個性を失いリーダーシップを失う。残るものといえば、大企業に特有の膨大な間接費だけである。ピーター・ドラッカー『創造する経営者』
未来に対する働きかけがおろそかになれば、どんなに強い会社であっても、やがては苦境に陥ってしまう。社会は常に変わっていくからだ。しかし取締役は、「未来に対する働きかけ」どころではなく、1つの部門の仕事に引きずり込まれ、日々の仕事をこなすことだけで精一杯だ。取締役が経営しなくていいのでしょうか。もとい、経営者が経営しなくていいのだろうか。
ドラッカーはこう言っている。
経営者は経営しなければならない。
ピーター・ドラッカー『Harvard Business Review』
取締役は経営の仕事にあたらなければならないのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授