第3回 ドラッカー「 いま上司に求められている仕事」ドラッカーに学ぶ「部下を動かそうとする考えは時代遅れ」(1/2 ページ)

いま、上司が迫られている改善とは何か。会社や部下に悩みを抱えているあなたの良きヒントとなれば幸いだ。

» 2022年08月01日 07時03分 公開
[山下淳一郎ITmedia]

 前回は、「部下と上司はお互いに考えが違う」という話をした。必要なのは、部下を方向性付け、部下に責任と権限を与えることだ。第3回は、「いま上司に求められている仕事」というテーマでお話ししたい。

上司が迫られる改善

正社員転職率7.0%の実態

ピーター・ドラッカー氏(トップマネジメント株式会社)

 私は仕事上、いろいろなトップと話す機会が多い。多くのトップが、人材の流出に頭を悩ませているのは、社員の離職率が上がっているからだ。2021年の正社員転職率は、過去6年で最も高い7.0%となっており、4人に1人が転職理由として「仕事内容に不満があった」と回答している。

 組織の一人として働くビジネスパーソンは、自分の仕事内容を何から何まで勝手に決めることはできない。仕事内容を決めるのは、会社側であり上司である。その会社に就職した人は当然のことながら、仕事内容はある程度分かっていて就職しているはずである。

 にもかかわらず、「仕事内容に不満があった」という回答は、上司の采配に不満があったということを示している。このような状況の中、「人材流出を食い止めるには何をどうすればいいのだろうか。いま、上司が迫られている改善とは何か」。今回はその点について話を掘り下げていきたい。会社や部下に悩みを抱えているあなたの良きヒントとなれば幸いだ。

部下が力を発揮できない原因

 いま、上司と部下に一番足りていないものは、話し合いだ。具体的に言えば「自分の考えを知ってもらい、相手の考えを知る場」である。それがなければ、不安が募る。「これを言ったら、いつもの長い説得がはじまる」と警戒し、言われたことだけをするようになる。「これを言ったらダメ出しされるに違いない」と自分の考えを言わないようになる。「これを言ったら評価を下げられる」と身の安全を過度に考えるようになる。そんな職場環境では、人は持っている力を発揮することも、新しいことに挑戦することもできない。部下は警戒心が先立ち、持っている力を発揮することができない。

聞け、話すな

思い込みや間違えもある

 上司は部下と話し合う前から、話し合いと遠いところにいる。上司は話し合う前から既に結論を持っているからだ。一度、頭の主(ぬし)となった考えは変えづらい。実際、上司は自分の考えと違う考えが部下から出てきた場合、「そうではない。よく聞け」と言わんばかりに説得を始めまる。上司の説教の場となり、話し合いでなくなる。そんな状況を改善するために、どうすればいいのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

「聞け、話すな」である。

ピーター・ドラッカー

 ここで、傾聴の重要性を言っているのではない。立場、役職、仕事、責任が違えば見えるものが違う。違って当然だ。物事には必ず死角がある。自分の肉眼で自分の背中を見ることができないように、一人の人間が認識できる範囲にはおのずと限界がある。生身の人間である以上、思い込みや間違えもある。部下の考えに耳を傾ければそれらが見えてくる。だから、「聞け、話すな」が重要なのだ。

自分が見えていることが全てではない

 実際、部下の話をじっくり聞いてみると、「自分はそこを気にしていたのか」ということに気付くことができる。また、自分が見落としていたものを発見することができる。部下も理にかなっていないことを言うはずがない。そこには上司の視界に映らないものが隠れている。部下の話を聞けば、「なるほど、そういう背景があるとは知らなかった」と理解が深まり、「分かった、それならこうしよう」と、より適切な考えが生まれ、自分の結論が変わることもある。上司は、自分が見えていることが全てではないことを肝に銘じておかなければならない。だから、「聞け、話すな」なのだ。

自分と違う考えに耳を傾ける

 自分に見えていないものを残したまま何かを決定するのと、自分に見えていないものを新たに知ったうえで決定するのとでは、その後の結果は大きく変わる。後者の方がより精度の高い決定ができるのは当然だ。「部下はなぜそう考えるのか」ということについて知っておいて損はない。上司は、「部下に見えていて自分に見えていないもの」を知ることが必要であり、そのためには自分と違う考えに耳を傾ける姿勢が求められる。だから、「聞け、話すな」なのだ。

上司と部下のこれからの関わり方

徹底的に話し合わなければならない

 「聞け、話すな」といっても、ドラッカーは「何も言うな」と言っているわけではない。「どんな考えで、どんな結果を望んでいるのか」といった方向性は示さなければならない。

 部署が違えば、部署ごとにものの見方、ものの考え方が違う。会社全体となれば、そこにいる人の数が多ければ多いほど、ものの見方、ものの考え方が違うのは当然だ。しかし、それを放っておけば、会社はバラバラになってしまう。そうならないために、どうすればいいのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

「われわれの事業は何か」との問いは、異論を表に出すことに価値がある。それによって、互いに考えの違いを知ることが可能になる。逆に、見解の相違に十分な理解がないことが、トップマネジメント内の感情的対立やコミュニケーションの齟齬の原因となっていることが少なくない。

ピーター・ドラッカー

 ひと言でいえば、「話し合おう」ということだ。トップマネジメント内とは、経営陣を指しているが、ここでは、上司と部下の間として捉えたい。異なる部署、異なる立場、異なる仕事、異なる責任から見える異なる見解を表に出し、お互いに、お互いの考えの違いを知ることによって、お互いの理解を深めていくことができる。「聞け、話すな」の次の大事なことは、徹底的に話し合うということだ。

コミュニケーションで解決できないもの

お互いにずれが生じた一生懸命

 社長も役員も、部長も課長も、そして、役職を持たない社員も、日々一生懸命仕事をしている。なのに、社長も役員も、部長も課長も、そして、役職を持たない社員も、心のどこかにモヤモヤがある。なぜだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

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