富山など北陸三県を中心に段ボールなどの梱包事業を展開するサクラパックス。経営理念を中心に、利他の心で年商100億を成し遂げた橋本淳社長が、理念経営について講演を行った。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、富山県に本社を置くサクラパックス 代表取締役社長の橋本淳氏が登場。『旧態依然とした会社を刷新させ、年商100億を成し遂げた社長が行った理念経営』をテーマに講演した。
創業76周年を迎えるサクラパックスは、段ボールの製造販売から包装設計までを行うトータルパッケージメーカー。富山県や石川県、新潟県などの北陸地方を中心に事業を行なっている。祖父が創業し、父である先代社長が発展させたこの会社を橋本氏が継いだのは、2008年。ワンマンだった先代社長は人材育成にはあまり力を入れておらず、人材面では一からのスタートだった。また、リーダーシップやマネジメント能力などは身についていたものの、経営については学んでいなかった橋本氏は、1年間をかけて徹底的に経営を学んだ。 稲盛氏が開塾した「盛和塾」の世界大会で発表したり、読んだ経営書の中から重要なことを抜き出したり、インプットとアウトプットを繰り返すことで、自分にとっての「経営の軸」を作り上げていった。
「私はとことんまで考え抜き、考えたらそれをまとめ、後はそれをやり抜くという方法を取っています。経営を学んで、とことんまで考えた後、300くらいのTO DOがあり、それを実践し続けてきました。ただ、普段はなかなか考える時間が取れないため、カレンダーに約半日から1日ぐらいの“ボスタイム”という時間を入れ、1人合宿のようにとことんまで考える時間を作っています」
そんな橋本氏の人生と、会社の在り方を変えた出来事があった。それは2011年の東日本大震災だ。発災翌日から8カ月間、物資を被災地に送ったり、ボランティアの人員を手配したりと、さまざまな被災地支援活動を行なっていた橋本氏は、ある日、富山から2泊3日で福島県浪江町に向かい、そこで炊き出しを行ったという。
「炊き出しが終わって車で帰る時、30人くらいの方が、頭を下げながら私たちを見送ってくれました。真っすぐな道をしばらく車で走り、数分後に振り返ったところ、まだ皆さんが頭を下げてくれていたのです。その時、自分の体中にビビッとくる衝撃がありました」(橋本氏)
この経験が橋本氏にとっての生きる指針となり、やがて会社の経営理念として確立していった。
「自分は何のために生きているのか? “誰かの笑顔のために生きていく”これが自分の生きる意味となりました。そこから、“世の中を笑顔にしていく”という考えを、会社に持ち帰りました」(橋本氏)
それまで方向性を示す経営理念はなかったサクラパックスだが、“誰かの笑顔のために生きていく” “世の中を笑顔にしていく”という考えのもと、皆で会社の進むべき方向を定めるための2泊3日の合宿を行うこととなった。課長以上の管理職50人が参加したその合宿で、100年後のサクラパックスをどうしたいか、議論を重ねた。
そこで決定したのが、以下の経営理念とミッションステートメントだ。
経営理念
「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ。」
ミッションステートメント
「すべてのものを正しく包み、確実に運ぶためのBest Wayを提供し続ける。」
あわせて、6つの誓いと行動指針を策定し、これらの考えを245ページの「SAKURAISM BOOK」という本にまとめた。しかし、理念の完成はスタートではない。社員全員に浸透し、社員のアクションが世の中を変えなければ意味がない。
サクラパックスでは、社内でミーティングを行う際、80項目に分かれた「SAKURAISM BOOK」から議長が選んだ1項目を読み上げ、その項目に対し参加者は20秒以内で意見を述べるという取り組みを行なっている。また、社長からのメッセージを給料袋に取付け、社員の家族へも理念を伝えているという。その他、社員とのコミュニケーションを図る「社長会」という飲み会を行なって社員からの質問を受け付けたり、会社の経営理念を現したテレビCMを流したりするなど、社内外で経営理念の浸透を図っている。
「私自身も広報のために、必ず月に1回メディア発信をしていくというノルマを課しています。メディアでサクラパックスが取り上げられ、それを見た社員にも“うちの会社は社会に貢献しているんだな”とますます経営理念が浸透していきます。理念は作るだけではなく、浸透させることが大事なのです」(橋本氏)
社員自らが理念に基づいた行動を起こすには、自ら考えることが必要になる。理念に基づいた行動とは何か、「考える力」を養うため、サクラパックスでは環境整備という活動を行なっている。
3月から8月までの6カ月分、「整理・整頓・清潔」について各課のグループで毎日の計画を作り、できたかどうか、何が足りなかったか、次はどうするか、PDCAを回すようにしています。さらに、一人一人朝15分間の清掃の計画を毎月作り、新入社員や中途入社した人でも誰もができる清掃という業務によって、考える力をつける訓練をしている。
また、「業務を正しく理解し、身につける」という基本的な流れを仕組み化するため、多くの業務をマニュアル化している。社内には約2000通りのマニュアルが存在している。全員にタブレットが渡されているため、タブレットからマニュアルにアクセスすれば、その業務ができ、属人化を防げるようになっている。
また興味深いのが、サクラパックスは数字の売上目標を掲げていない。売上を達成したかの結果を問うのではなく、お客様の元を何回訪れることができたのか、キーパーソンに何回会って自社の製品を説明することができたのか、など、その販売に至るまでの行動を重視している。
「“意識”とは異なり、“行動”の有無は検証しやすく、誰もがまねしやすいというメリットもあります。意識を変えるよりも、行動を変えたほうが早く結果が出るのです」(橋本氏)
その考えをベースに、SAKURA経営モデルという経営モデルが生まれた。ミッション活動、KAIZEN活動、環境整備活動と3つを柱に、1週間ごとに「スケジュール→アクション→カイゼン→アッパー→リスケジュール→アクション」と1週間でPDCAを回すこのSAKURA経営モデルが、利益を生む最大のエンジンとなっている。1カ月ではなく、1週間でPDCAを回すことで、迅速に、細かい活動を行っていくことができ、間違っていればすぐに修正しより深く行動に移すことができる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授