“人の心を動かすプロ”である管理職が理解すべき「部下全員が活躍する上司力5つのステップ」ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

ダイバーシティが進んだ現在、職場を取り巻く環境も、20年前とは大きく変わっている。以前とは違い、「右向け右」という画一的な号令では部下が動かない現在、管理職に求められる新たな「上司力(R)」とは何なのだろうか。

» 2023年08月29日 07時09分 公開
[松弥々子ITmedia]
『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(Amazon)

 90年代からリクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長などを務め、約40冊に及ぶ著書や連載等の取材を通じ、30年以上一貫して働く現場から見て上司はどうあるべきか、会社はどうあるべきかを探求し続けてきたという前川氏。2008年に株式会社FeelWorksを創業し、大企業400社以上で人材育成支援などを行ってきた。人を育て組織を活かすための「上司力(R)」をキーワードに、自身も経営者として実践しながら、部下を育てるために上司はどうあるべきかを提唱している。

管理職は人の心を動かすプロフェッショナル

FeelWorks代表取締役 前川孝雄氏

 部下を育て活かすための課題とは何だろうか? 米国の経済学者ロバート・カッツは、1950年代に組織の階層によって求められるスキルが異なるという「カッツモデル」を提唱している。組織で求められるスキルには「自分を動かすテクニカルスキル」、「人を動かすヒューマンスキル」、「組織を動かすコンセプチュアルスキル」があり、上層に行くほど、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルが求められる割合が高くなってくるというものだ。しかし、このスキルにも時代とともに変化が起きているという。

 「現在、ミドル層の管理職に求められるのは、指示・命令で『人の“体”を動かす』スキルよりも共感・支援で『人の“心”を動かす』スキルです。今の管理職は人の“心”を動かすプロフェッショナルでなければいけません。人の心を動かすスキルは上司力の本質です」(前川氏)

 これからの時代、「課長」「部長」といった管理職には、人の心を動かすスキルが必要になってくる。

業績向上とマネジメントの狭間で奮闘する上司たち

 時代の変化とともに、組織の在り方や人の考え方も変わってくる。自分が若手だった頃に受けた指導方法では、今の若手社員には伝わらないことも多い。前川氏の元には、新たに管理職となった人から、昔と今のギャップに悩み、若手社員をどう指導すべきか、どのように仕事を指示するべきかという悩みが寄せられている。

 これまでプレイヤーとして優秀な成績を上げてきた人でも、管理職となるとこれまでのやり方では成果を上げられなくなるという。ハーバードビジネスクール教授のリンダ・ヒルらによると、成果をあげられない新任管理職が陥る「5つの落とし穴」がある。

1、隘路(あいろ)に入り込む

2、批判を否定的に受け止める

3、威圧的である

4、拙速に結論を出す

5、マイクロ・マネジメントに走る

 優秀なプレイヤーが管理職となり、早く成果をあげようと努力すると、この落とし穴にハマり、頑張れば頑張るほど成果が上がらなくなる。これを「クイック・ウィン・パラドックス」という。

 「このパラドックスから脱するには、自分を客観視して、これまでの固定観念から脱しないといけません。マネジメントのやり方や、部下たちとのコミュニケーションの取り方を変えていかなければいけないでしょう」(前川氏)

経験則のマネジメントが通じにくい時代

 社会を取り巻く環境は大きく変わってきている。少子高齢化により、15〜64歳の生産年齢人口自体は減っているが、実は就業者数じたいは増えている。女性とミドル・シニアの労働参加が進んだからである。ただ、これらの層が非正規雇用や定年後再雇用などに留まり、十分な活躍の場を得ていないことが問題だ。ダイバーシティマネジメントを進めて、老若男女の幅広い人員の総力戦で働くことが不可欠な時代となっている。

 現在では、若者が少なく高齢者が多い職場が一般化している。2020年の調査では、従来のような若い層の人数がもっとも多く、年齢層が上がるに従って人数が減っていくというピラミット型組織は4.9%にまで減少。高齢者偏重組織が84.0%、若年者偏重組織が16.0%という結果が出ている。

 「今の40代、50代が会社に入った時は、若い層の社員がたくさんいて、上司からの『右向け右』という指示をあうんの呼吸でみんなが実行していました。でも今は、“右ってどっちですか?”“それは何故ですか?”と聞かれる時代なんです。それぞれ考え方や価値観が違う社員たちに、丁寧な説明が必要になってきました。これからは、上司力としてダイバーシティマネジメントが求められます」(前川氏)

 現代は、同じ価値観を持つ画一的な人材が揃っている時代ではない。多様な価値観・背景を持った人材が、それぞれ支え合って働く職場を作らなければならない。このダイバーシティマネジメントを会得することが、現在の管理職の必須課題と言えるだろう。

求められるダイバーシティマネジメント

上司に求められる自責

 社会が大きく変化し、これまでの経験則が通じない現代。組織の一員としてパフォーマンスを上げる必要があるが、さまざまな要因でなかなか目標が達成できないこともある。しかし、そこで管理職に必要となってくるのは、“自責”という概念だ。

 「部下が問題のある社員ばかりだ」「環境変化のせいで予測どおりにならない」「時代が悪い」など、“他責(経営・会社・お客様・環境・時代)”に目を向けている限り、管理職として成長することは難しい。自分でコントロールできない他責要因に目を向けていると、結局は人や組織に振り回されることになってしまう。

 「他責要因に目を向けていても、何も始まらないし、自己変革も起こりません。自分の全人格を否定することはないので、あくまで仕事と割り切って、自責で物事をとらえてください。自分の中でコントロールできる要因は何だろうかと、自責で考えて行動を変えていくようにしましょう」(前川氏)

「働きやすさ」の整備から「働きがい」の創出

 これからの時代、多様な部下たちをマネジメントしていくうえで必要なのが、“働きやすさ”ではなく“働きがい”となってくる。

 フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」によると、働く環境・条件・人間関係・給料などの“衛生要因”を向上させると、社員の不満足が減っていく。仕事内容・責任・承認・達成などの“動機付け要因”を上げていくと、社員の満足度が上がっていく。衛生要因ばかりを向上させ働きやすい職場を整備しても、不満足が減るだけで働きがいは向上しない。結果的に既得権意識ばかりが肥大化し、部下たちは育たず活躍もできない。結果、マネジメントの破綻を招く事になる。

 「時短勤務の社員が、早く仕事を終えられるように仕事の負荷を下げると、“自分は期待されていないんだ”とその人のモチベーションを下げることもあります。また皆が定時で仕事を終えられるように、経験の少ない若手社員に負荷の低い仕事ばかりを与えていると、人材育成の機会を削いでしまうことにもなります。上司としては、時間的制約、空間的制約があっても、本人の成長や活躍につながる負荷の高い仕事を任せるなど、部下のモチベーションを上げるために動機付け要因を高めていく必要があります」(前川氏)

 動機付け要因を上げることで部下が働きがいを感じるようになれば、たとえ働きやすさという点で衛生要因に不満があったとしても打ち消し効果で不満は解消されていく。働きがいを感じさせることが、上司にとっては重要となる。

 では、「働きがい」とは何だろうか。人のために動くと書いて、「働く」と読む。働くとは、傍(はた)を楽にすることでもある。「働きがい」とは、お客さま、社会・世の中、チーム(会社・職場)といった人のために動く喜びを感じられるということになる。

 「部下の一人ひとりが、人のために動く喜びをそれぞれの役割で感じる職場を作っていくことが、上司のとても重要な役割なのです」(前川氏)

部下全員が活躍する上司力 STEP1 相互理解

 チームづくりにとってまず重要なのは、上司と部下、同僚といったタテ・ヨコ・ナナメのすべてのメンバーの「相互理解」の促進だ。チーム全員がお互いを理解できるよう、上司が自分から自己開示を行い、互いの共通項を見つけ合うことから始めよう。メンバー間の相互理解を深めることで、チーム内で安心してコミュニケーションが行える関係性ができる。

 上司が部下とのコミュニケーションの循環をよくするには、「まず相手との違いを認め、部下の価値観を知り、上司としての支援の在り方を定め、日々のコミュニケーションのやり方を変える」というFeelWorksが提唱する「コミュニケーション・サイクル理論」が有効になる。このサイクルに従ってコミュニケーション循環をよくしていくことであたたかい絆を育み、組織の体質を変えていくことができる。

部下全員が活躍する上司力 STEP2 動機形成

 業務を遂行していくために重要なのは、「組織と役割それぞれの目的に対する動機形成」である。組織の目的と部下に任せるの役割の目的両方に「動機形成」しなければならない。組織の目指す仕事の目的をクリアにして、そこに向かうための一人ひとりの役割の目的が部下自身の成長や活躍に通じていることをしっかりと理解できるよう、部下に腹落ちさせなければならない。

 「従来型のピラミッド型組織では“ポスト”と“報酬”で動機付けできましたが、今はそのような時代ではありません。それぞれが違った考え方を持ったメンバーが集まり、“組織の目的”と“個々の尊重”で動機付けするサークル型組織へと変えていくことが大切なのです」(前川氏)

ピラミッド組織からサークル組織へ
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