アジャイルとビジネスアナリシスビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(2/2 ページ)

» 2024年06月18日 07時09分 公開
[濱井和夫ITmedia]
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アジャイルにおけるビジネスアナリシス

 アジャイル開発で最も活用されているフレームワークはScrumですが、Scrumでは以下の責任を持つプロダクトオーナーという役割が定義されています。

  • プロダクトゴールを策定し、明示的に伝える。
  • プロダクトバックログアイテムを作成し、明確に伝える。
  • プロダクトバックログアイテムを並び替える。
  • プロダクトバックログに透明性があり、見える化され、理解されるようにする。
アジャイル開発で最も活用されているフレームワークScrum

 これらの責任を果たすためには、プロダクトオーナーが個人の思いだけで勝手に決めたということでは、もちろん価値あるものはできませんし、チームやステークホルダーが納得する状態にはなりません。BABOKガイドにある6つのコア・コンセプトを明確にして、ステークホルダーが納得する合理性のある判断を行うことが必要であり、プロダクトオーナーはビジネスアナリシスを実践することになります。

 この単一のScrumチームは、アジャイル拡張版でのデリバリー・ホライズンに該当しますが、顧客の価値を認識したプロダクトオーナーの元、チームでの開発がうまくいっているように思えても、所属している部門、事業部の方針や、会社としての経営方針と合っていない状態であれば、突然、開発中止や、開発方針の変更というようなことも起こり得るのではないでしょうか?

 デリバリー・ホライズンを有効に機能させるためには、戦略ホライズン、イニシアチブホライズンでの考え方を十分理解した活動を行う必要がありますし、またプロダクトを市場に提供し、そのフィードバックをいち早く認識できるデリバリー・ホライズンからのフィードバックを元に、イニシアチブホライズン、戦略ホライズンが計画を柔軟に、そして適切に変更できなければ、アジャイルな活動にはなりません。

 開発対象が大きくなって、会社全体の方針や、プロダクトの方針に沿った開発を継続的に行うためには、大規模アジャイルの適用を考える必要が出てきます。

 ここではSAFeを例に考えると、企業全体のアジリティを保つためにポートフォリオレベル、ソリューション/プロダクトレベル、チームレベルといったレベル分けと、それらの関係、及びそれを実施する人の役割の定義がされています。厳密に1:1対応というものではないですが、これらのレベル分けが戦略、イニシアチブ、デリバリーといったホライズンを3つに分けた考え方と符合します。

 各レベルで活動するエピックオーナー、アーキテクトは経営のレベルで必要なソリューションやプロダクトの選択とリソースのアサインを行うため、そしてソリューションオーナー、プロダクトオーナーは、実装が必要となるフィーチャーの選択とその順番を判断するために、ビジネスアナリシスを実践することになります。

SAFe 6.0フレームワーク(FULL) (C)Scaled Agile, Inc.

全てはビジネスアジリティのために

 これまでの議論で、「アジャイル」と「ビジネスアナリシス」は相いれないものではなく、ビジネスアジリティをもってアジャイルを推進する上で、6つのコア・コンセプトを意識して絶えずフィードバックを行い、継続的に判断と計画作りと見直しを実践するビジネスアナリシスは不可欠ということが理解できたのではないでしょうか。

 先に、説明したように「アジャイル」という言葉はアジャイルソフトウェア開発という狭い領域を指すものではなく、持続的に価値創造を迅速に行えるように、企業組織として変化を感知し的確かつ迅速に対応する能力を持つことを含んでいますが、IIBAでは後者の組織としての能力をNimble(ニンブル)という言葉で定義しています(Nimbleに関してIIBAではNimble reportを無償で提供しています。 IIBA日本支部では日本語への翻訳活動中でこの連載中には提供できると思います)。

 また、ビジネスアジリティに関してはIIBAの活動に大きな貢献をしているロジャー・バールトン、ロナルド・ロス、ジョン・ザックマン共著で、IIBA日本支部関連の有識者が翻訳も行ったビジネスアジリティ・マニフェストというものがあります。

 興味を持ったら是非参照してください。

著者プロフィール:濱井和夫(はまい かずお)

  • NTTコムウェア(株)コーポレート革新本部 技術革新統括部 プロジェクトマネジメント部門、 エンタープライズソリューション事業本部事業企画部PJ支援部門 兼務 統括課長、アセッサー PMOとしてプロジェクトの適正運営支援、及びPM育成、及び上流工程品質向上活動に従事。
  • IIBA日本支部 監事 2017年からIIBA日本支部理事(教育担当、総務担当)。BABOKの日本での普及活動に従事。Kindle版「よくわかるビジネスアナリシス」(共著)、BABOKガイド アジャイル拡張版v2(翻訳)、ビジネスデータアナリティクス・ガイド(翻訳)、ビジネスアナリシス標準(翻訳)、プロダクトオーナーシップ概論(翻訳・まもなく出版)
  • その他 Kindle版「アジャイル品質パターン「QA to AQ」 伝統的な品質保証からアジャイル品質への変革(CodeZine Digital First)」(翻訳)
  • SE4BS推進メンバー
  • 匠Method User Group幹事グループメンバー

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