製造業や鉄道の保守管理など専門知識が必要な分野で、若手の作業員らの質問に回答できる高度な生成人工知能(AI)の開発が進んでいる。
製造業や鉄道の保守管理など専門知識が必要な分野で、若手の作業員らの質問に回答できる高度な生成人工知能(AI)の開発が進んでいる。技術者の高齢化や退職で、必要な知識や技能が継承されない問題にテクノロジーで対応する。AIに知識を学習させるためベテランだけが知っていた技能を改めて聞き取って文書化するなど、「棚卸し」作業も同時並行で行っている。
JR東日本は10月、鉄道固有の知識を学習した生成AIを自社で開発すると発表した。人手不足が深刻化する中、社員の問い合わせに対応し業務や教育が円滑に行えるようにする。2027年度末の完成を目指す。
6月には汎用(はんよう)性の高い海外の生成AIを利用して社内の質問に答えるチャットを導入した。ただ、鉄道事業の保守管理に必要な知識は広範に及び、精度の高い回答が作れないことが分かったため、専用AIの開発に踏み切った。
AIは鉄道に関する法令、社内規定、各組織で作成しているマニュアルや文献など、膨大な資料を学習。過去の工事の図面なども読み込み、工事計画の提案も行えるようにする。
広報担当者は「今後、文書になっていないノウハウが見つかれば会社で把握する。引き継がれない知識をなくし、誰もが使えるよう『平準化』していく必要がある」としている。
西武鉄道も、車両設備の保守管理に関する問い合わせに、生成AIが回答するシステムの構築を検討している。
熟練技術者の引退、技能の消失を懸念するものづくりの現場でも生成AIの活用が進む。ライオンは6月、NTTデータと連携し、衣料用粉末洗剤の製造ノウハウを生成AIに学習させる取り組みを始めた。
もともとあるデータとは別に、社内でベテランから聞き取りを行い、マニュアルにはない細かなポイントを記した「勘所集」を作成。AIに覚えさせ、社内教育に活用するという。
インフラ整備、ものづくりの現場では作業を間違えれば事故につながりかねない。AIにはこれまで以上に正確さが求められる。三菱総合研究所の西角直樹主席研究員は「信頼性を第三者が評価する仕組みづくりが必要。民間の業界団体等での自主的な取り組みに加え、国が安全の基準を示すなど官民で同時並行的に進むのが望ましい」と話し、生成AIの回答精度を高める仕組みに期待を込める。
同研究所では生成AIがもたらす日本経済へのプラス効果について、AIの正確性向上を前提に、2030年代には現状の9倍となる年21兆円規模になり得るとの試算をまとめている。(織田淳嗣)
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