空飛ぶトラック、自動おにぎり製造マシン……町工場の技術と知恵を万博で全世界へ発信

世界の「困りごと」を大阪の町工場が解決。4月13日に開幕する大阪・関西万博で、中小企業74社が19のグループをつくり、各社の技術や知恵を結集して国内外の社会課題の解決策を示すプロジェクトが進んでいる。

» 2025年04月04日 12時11分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 世界の「困りごと」を大阪の町工場が解決-。4月13日に開幕する大阪・関西万博で、中小企業74社が19のグループをつくり、各社の技術や知恵を結集して国内外の社会課題の解決策を示すプロジェクトが進んでいる。大手企業からの「下請け依存」脱却に向け、世界から注目を集める万博の舞台で町工場の実力と製品の有用性をアピールする。

 大阪は製造業を中心に中小企業が多く、海外との価格競争や原材料費高騰、人手不足などで厳しい経営環境にある。大手企業は円安の進行で輸出関連を中心に業績を伸ばす一方、下請けの立場の中小企業への適正な価格転嫁が進まず、格差が拡大している。

 こうした中、中小企業が生き残りをかけた実力アピールの場として万博を活用する。大阪府市が手掛ける「大阪ヘルスケアパビリオン」では400を超える中小企業が毎週入れ替わる形で出展。社会課題解決のプロジェクトは、大阪商工会議所と大阪信用金庫が音頭を取り、「身近な課題や世界のお困りごとを大阪の町工場が解決します!」と題して会期中に実施する。

 中小企業はこれまで横のつながりは強くなかったが、万博で共通の目標に向けて協力体制を築いた。それぞれが持つ技術や知恵を出し合い、迅速な意思決定をすることで本番に向けて試作品や製品の開発を進めている。

 成光精密(大阪市港区)などのグループは、ヘリウムなどで浮上し、プロペラで推進力や高度を調整する飛行船を使った輸送を考案。化石燃料の消費を抑えるだけでなく、災害時に必要な物資を直接届けることもでき、「空飛ぶトラック」を意識している。

中小企業の出展コーナーがある大阪ヘルスケアパビリオン=大阪市此花区

 同社の高満洋徳社長は「大阪に来たら何でも作ることができるという強みを世界に発信することが大事」と語る。

 東洋水産機械(堺市)などのグループは、市場価値が低いとして漁船や漁港で廃棄される「未利用魚」を食料として活用することを目指す。人工知能(AI)を搭載した機器でさまざまな魚の中から未利用魚を選別し、加工や小骨も検出できる装置を開発している。

 グループの関係者は「AIは優秀で、人間が魚を目で見て判別できる種類であれば、どの魚か判別できる。魚と一緒に取れた貝などをどうするかといった課題もあるが、装置を使えば豊かな食文化を支え、食料不足問題の解決につながる」と話す。

 プロジェクトでは他にも、自分自身の幹細胞を原料にスキンケアを行う化粧品(プリマールなど)▽傾斜8度まで座面が水平を保ち、安定した走行性と簡単な操縦性を実現した車いす(ニシト発條製作所など)▽「ホカホカ・フワフワ」のおにぎりが自動でできる装置(ユニックスなど)-といったユニークな技術や製品が展示される。

 大商が2月に開いたプロジェクトの参加企業を集めた決起イベントでは、大商の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長)が「各社からは、大企業が失ってしまっているかもしれない、ものづくりの情熱を感じる」と強調。東阪電子機器(大阪府吹田市)の永野仁士社長は「社会に求められない技術は必ずなくなる。衰退する」と述べ、危機感をあらわにした。

 プロジェクトについて、東京商工リサーチ関西支社情報部の瀧川雄一郎氏は「ものづくりの中小企業は人手不足もあり、自社の高い技術力を国内外に発信することに経営資源を割くことができずにいる。他社との連携も含めて、万博でアピールできることはメリットがある」と評価する。

 一方で「万博参加により取引が増加することも予測されるだけに、万博参加をゴールとせず、現段階から閉幕後の取引要請に対応できる体制を整えておくことも重要だ」と指摘した。(井上浩平)

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