谷元氏が特に印象に残っていると語るのが、あるエンタープライズ企業の大規模なシステム移行案件だ。
「1時間のミーティングだったのですが、お客様が現在の複雑なネットワークや人事マスター、ID管理のデータフローなど、すべてが記されたシステム全体の構成図をお持ちになったんです。レガシーなシステムが絡み合うもので、担当者は『もうどこから手をつけていいか分からない』と頭を抱えていました。そこで、その図をその場で描き直しながら提案しました」
谷元氏は、これまでの知見を総動員し、ホワイトボードに新たな矢印を書き込んでいった。「ここのLDAP(Lightweight Directory Access Protocol)などを引きずると後々苦労するので刷新しましょう」「人事マスターをこう変えれば、Active Directoryへの連携はこうなります」「この周辺サービスはHENNGE Oneで繋げます」――コンサルタント顔負けの即座の課題整理と解決策の提示に顧客は納得した。当該顧客は、他社にも同じ構成図を共有するかたちで相談したが、「HENNGEの提案が一番しっくりきた」と、プロジェクトは大きく前進したという。
また、顧客の厳しい要求と自社の開発陣をつなぐ「橋渡し役」としても社内を奔走する。クラウドサービス導入の際、顧客企業から厳しい基準で回答を求められる「セキュリティチェックシート」の対応がその例だ。
「企業によってフォーマットはバラバラで、多いところでは300項目以上もの質問がズラリと並び、埋めるのに7時間かかるような膨大なものもあります。これを営業一人で完結させることはなかなか難しいです。開発チームや、社内の法務部門に直接掛け合い、知見を総動員して1項目ずつ正確な回答を作成していきます。お客様が社内の稟議を通すために何が必要かを汲み取り、社内を巻き込んでいくのも、営業の重要な役割だと考えています」
HENNGEの強みは、谷元氏のような顧客接点の最前線にいるメンバーが拾い上げたVOC(Voice of Customer)を、迅速に製品開発に反映させる体制にある。営業は顧客と開発チームを繋ぐ「共創の窓口」という位置づけだ。
「営業から開発チームへエスカレーションする仕組みが整っており、月に数百件規模の要望が上がっています。例えば、『従業員が意図せず利用をしてしまうクラウドサービスへの対策』『 パスワード管理の利便性向上』『管理者権限の細かい設定』といった要望です。自社開発だからこそ、優先順位をつけてスピーディーに実装される環境があり、製品の進化が非常に早いのが特徴です」
顧客から相談される課題は、自社製品の枠にとどまらない。従業員数1000名を超えるような企業では、巨大な基幹システムやネットワーク構成がレガシー化し、刷新に数年がかりの莫大な労力がかかるケースも多い。谷元氏はそうした深いジレンマに寄り添いながら、最新のITトレンドを踏まえてアドバイスする。
「最近多いご相談は、『AIの活用』と『セキュリティの優先順位』、そして『脱VPNとネットワーク構成の見直し』です。AIについては、導入したものの利用率が上がらないという企業に対し、『まずはAI道場やAI塾のような場を開き、リテラシーの高い人を味方につけて裾野を広げていく』といった他社の成功事例をお話ししています」
セキュリティに関しても、IPAの情報セキュリティ10大脅威などを引き合いに出しながら、「お金をかければ守り切れる時代ではない」と谷元氏は語る。
VPNが狙われる時代になり、ゼロトラストやEDR(Endpoint Detection and Response)の導入など、ネットワーク構成を見直すことは重要だ。しかし、谷元氏は並行して、ソリューション導入以外の対策も提案するという。例えば、ランサムウェア感染を想定し、経営層も巻き込んでどう対応するかを判断するセキュリティ演習なども強く推奨している。
セキュリティというと、どうしても制限するものというイメージが付きまとう。しかし谷元氏が目指しているのは、顧客の社員が安全に、かつ自由に働ける環境を作ることだ。セキュリティはガードレールでなければならない。そのためには、自分の立場をツールベンダーに留めていてはならない。
「ITのトレンドや他社インシデントの原因と対策など、最新の情報を仕入れつつ今後の対策を考える『戦略的な壁打ちの相手』として我々を使っていただきたいんです。HENNGEがお客様向けに主催するイベントでは、情報システム・DX推進・セキュリティ部門を担当する方々を集めて、関連する情報や懇親の機会を提供しています。HENNGEと付き合っていると、『いつも面白い話をしてくれるな』『良い気づきが得られるな』『横のつながりが広がるな』と思っていただける存在でありたいですね」
ITインフラが複雑化し、レガシーシステムと最新SaaSが混在する正解のない時代。メーカーとしてソリューションを拡張できる力と、情シス経験者としての高い顧客解像度は大きな武器になる。谷元氏のような熱意ある「アドバイザー営業」こそが、未知の脅威や新しいテクノロジーと向き合うために必要な存在だ。
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